倉地久美夫ドキュメンタリー映画『庭にお願い』

ヨコハマ国際映画祭でプレミア上映される『庭にお願い』を観に、東京藝術大学大学院映像研究科馬車道校舎へ。旧富士銀行の古い建物をリノベーションしていて、海側にある旧日本郵船倉庫を利用したBankARTと同じように、天井が高くて柱が太くてすこし不便で格好良い。

『庭にお願い』は、ミュージシャン倉地久美夫さんの活動と人となりを紹介するドキュメンタリー。監督は『パンドラの匣』や冨永昌敬さん、企画製作(つまりプロデューサー)は編集者の須川善行さん。つまりわたしにとっては、『パビリオン山椒魚』関連でお仕事をさせていただいたおふたりによる映画。そしてなにより、わたしは倉地さんのファンなのだ。上映のお手伝いにいきまーすと、軽やかなスキップで東横線からみなとみらい線へと乗り入れる。ホール入口で倉地さんのCDの売り子をしながら、ちゃっかりと映画もアフタートークもライヴも観る。

映画は、二〇〇六年に渋谷のギャラリールデコで行なわれた「倉地久美夫フェス スリーデイズ」(須川さんが企画)のライヴ映像をふんだんに盛り込んだ、倉地さんの音楽と言葉の世界に肩まで浸かることができる作り。倉地さんと一緒にバンドを組んでいた菊地成孔さんと外山明さん、八十年代に倉地さんを東京に呼んだと言われているスタディスト岸野雄一さん、マニュアルオブエラーズ山口優さん、PANIC SMILE石橋英子さん、「円盤」田口史人さんなどが登場し、それぞれが接し感じている倉地久美夫について語っていく。岸野さんが喋っているときに背景にあるビルのシャッターが閉まっていく様子はコメディのようだし、何も語らずにドラムを叩くばかりの外山さんの姿はストイックで、それと対比するかのような菊地さんの饒舌ぶり。石橋さんが聴いて感銘を受けたという「300,000,000粒ダム」の世界。つかもうとすると手の中からするりと逃げていく不思議さと、たしかにここにある圧倒的な存在感。それぞれの語りからも倉地さんの「天才」ぶりが感じられる。田口さんが「後にも先にも他に似たような人がいないくらい変だというのが倉地さんのすごいところ。でも、変は変でも大衆性のある『変』だから、もっともっと世の中に知られていくべきだし、そうなるだろう」というようなことを話していたのに納得(アフタートークで倉地さんは「田口くんは『変』とか言うけど、僕は変だとはおもいません」と苦笑いしていたけれど)。

たくさんの演奏シーン、朗読シーンがあって、まるでライヴを見たかのような充実ぶり。映画の中で猫を全力で追いかける大人げない倉地さんは、実際に楽屋でお会いしたときにもやっぱりキュートでした。
(わたしが倉地さんのことを書いた日記をさがしてみました)
☆2003/10/11
☆2003/10/12
☆2004/03/25

倉地さんの作品やライヴのごく一部しかわたしはまだ知らないけれど、菊地さんと外山さんとのトリオで録った『I heard the ground sing』(美音堂/2003)、それから『太陽のお正月』(きなこたけレコード/1995)は、何度も何度も繰り返し聴いてしまうのだ。上に載せた顔ジャケはいちばんさいきんのソロアルバム『スーパーちとせ』(円盤/2007)。このなかに、映画の仮題である「庭にお願い」も収録されています。

I heard the ground sing

I heard the ground sing

【倉地久美夫】