三月の京都一乗寺散歩

目覚めるとくもり空の日が増えて、台所の窓辺で朝日を浴びるのが午前八時の日課だった猫がつまらなさそうな顔でふとんに残ってふて寝をし、洗濯ものを屋上に干してでかけた数時間後に走って戻ってくる、そんな日常に春の近さをかんじます。早起きした日よう日、コーヒーを飲みながら、今日の予定を考える。すこし遠くの大阪、北摂、奈良、神戸、いまから列車に乗ればどこにだって行ける。有次の包丁を砥ぎに出したかったので、京阪に乗って京都へ行くことにしました。

環状線京橋駅で京阪に乗り換えます。京阪のツートンカラーの車両がかわいい。特急でぐんぐんと飛ばして終点の出町柳まで。ここで叡山電鉄に乗り継いで数駅の一乗寺へ。

 

一乗寺では宮本武蔵の下り松を見たり、曼殊院へ向かう途中にあるパン屋「ORENO PAN okumura」で数量限定という一個三百円のクリームパンを食べながら歩いたり。自家製のカスタードクリームはよく冷えていて生菓子のよう、貴族の味がしました。ふわふわの角食は軽くトーストしてバターなしで食べるのがおいしい。一乗寺祇園にあるレストラン「okumura」のブーランジュリなのだそうです。


【ORENO PAN okumura】
京都市左京区一乗寺谷田町5 電話 075-702-5888 9:00〜17:00

京都の北のほう、一乗寺に行く理由といえば京都老舗セレクト本屋の「恵文社」さん。雑誌編集者時代、それから数年前に作ったフリーペーパーや「座頭市映画手帖」を扱っていただいていたりと、長くお付き合いしてきたのに、お店を訪ねる機会がなかったこの十年。ずっと思っていたよりも、それ以上に魅力的なお店でした。時間はあっという間に過ぎていきます。ここでは小沼丹『懐中時計』の文庫を買いました。ほんとうは最初、その隣に置かれていた函入りの『黒と白の猫』を手に取ったのだけれども、表題作「黒と白の猫」がこの文庫にも入っていたのでよしとしよう。

黒と白の猫

黒と白の猫

それから「Forest & me」という旅関連のミニコミを購入。群馬県の北軽井沢の森のなかにあるブックカフェ「アトリエ麦小舎」さんで作られているそうです。ハタリブックスの半分は鉄道と旅で占められていて(もう半分は音楽と座頭市)、「旅と喫茶とカレーと日常」と冠したお店「モハキハ」をひらいたこともあって、モハキハ発信で旅と散歩のミニブックをつくろうと考えていたところだったので興味深く読みました。旅好きなミスハタリはいかんせん信州贔屓なので、信越本線や下諏訪が取り上げられているのがうれしい。ああ、大糸線飯山線に乗って山にやってくる春を訪ねる旅がしたいなあ。

出町柳に戻り、京大近くの進々堂で休憩。

ここのミックスサンドは、「喫茶店でサンドイッチが食べたいな」の気分をあらゆる方向から満たしてくれる。歴史と自信のサンドイッチ。創業八十年なのだそうです。

それからしばらく散歩。

床屋の前でしま猫ツインズに出会う。

午後六時を過ぎていたので錦市場は店じまい。ざんねんながら柚子こしょうも、じゃこ山椒も、磯寿司も、有次で包丁を研いでもらうこともかなわなかったけれど、春のたのしい半日散歩となりました。