大阪桜時間

昨年までは神田川沿いの桜をながめながら井の頭公園へ向かう散歩がこの時期のお決まりだった。公園の手前で路地を曲がり、菜の花と桃の花と桜がそれぞれ勝手に咲き乱れ、地面からつくしがにょきにょきと生えていた、あの放ったらかしの原っぱはきっと今時期はとても色鮮やかなことだろう。それが今年の春は、大阪の町を歩きながら桜の花を見上げている。新しく好きになる景色を探してわたしは歩く。

モハキハがお休みの金よう日には町に出よう。自転車には乗らず、ひたすら歩こう。近所の公園、神社、大川沿いの桜など、わたしが知っているいくつかの場所で咲いている桜を眺める。日暮れまでにはあと一時間、行って歩いて戻ってちょうど一時間。上方花見の定番、大阪城公園へ。宴会のにぎわい、ビデオキャメラを回しながら歩く家族連れ、外国からやって来た観光客の行列。ああ、そうだ。昨年の同じころに、はじめて大阪城公園で散りかけの桜を見た。旅と日常のあいだくらいの気分で歩いてきた大阪城公園。その日はとてもあたたかかったのに、日暮れとともに陽気が逃げていき、すこし薄着だったわたしは、夜になって強くなった風に吹かれて肌寒く感じていた。あれから一年ぶりの桜、つまりようやく季節が一巡したのだ。あっという間にすぎていったこの短い日日は、驚くほどに密度の濃い時間で満ちている。思ったこと感じたことのひとつひとつが、いまだしぶとく鮮明な輪郭をもって記憶になっている。そのクリアな感覚は今日のわたしをしあわせにさせる。

そんなわけで、こちらでの暮らしはなかなかたのしく、きらきらしています。