富士の見えない山中湖散歩

民宿のふとんの上で目が覚め、寝ぼけ顔のまま、ちゃぶ台の上の焼酎類を片付ける朝。昨夜、やいのやいのと楽しく飲んでいたら、隣の部屋から「もう十一時ですよ、静かにしてください」とふすま越しに叱られて、ごめんなさい、しょぼーんとそのまま眠ったのだけど、隣は早起きだった様子でテレビの音声で目が覚めた。「まだ七時ですよ!」と言い返したかったけれど、「だって朝ですよ」とまた叱られそうだったのでやめた。

今日も残念ながらくもり空。午前十時に宿を出て、道志みちを歩いて「石割の湯」へ。以前から気になっていた山中湖温泉、これがなかなか立派な施設で、内湯には源泉ままのぬる湯と加熱したあつ湯、打たせ湯やあわぶくの寝湯やサウナがあり、露天は檜風呂(ぬるい)と岩風呂(あつい)の二種類。まだ十一時だというのにとても混んでいて、オバチャン、おばあちゃん、チビッコ、そしてセンス・オブ・ワンダーな女子など、たくさんのひとが湯に浸かっていた。お湯そのものは色、においともに特徴がなく軽い肌ざわり。この湯、アルカリ度がとても高い(ph10!)という。露天の檜風呂でおばあちゃんたちのあいだに混じってぼんやり浸かっているとゆうに一時間が過ぎていた。強烈な効用を感じるわけではないけれど、ぬるま湯に長く浸かっているとだんだんにからだが落ちついてくる。いろいろなお風呂を試して、結局二時間ほど入浴。すっかりふやけた湯あがりに休憩所をのぞくと、マヤ&モモはすでに畳の上でビールを飲んでいた。今度は「紅富士の湯」にも行ってみたいな。

山中湖畔に戻ったとき、はじめて富士山が姿を見せ、つい歓声。モモちゃんが「静岡県民いわく、富士山は見るものではないんだってさ」と言った。「富士は、感じるものなんだって」。そうか、富士山が見える見えないと一喜一憂しているわたしたちが浅はかだったのか。「でもさー、朝霧で見た紅富士は立派だったよ」とマヤ。ミーハーかもしれないけれど、やっぱり見たいもんね、富士山。

ふっじさーん、ふっじさーん、とひさしぶりに電気グルーヴをあたまのなかで歌いながら、バスで帰路につく。ちなみに東京でも、空気が澄んだ冬の晴れた早朝には、中央線の車窓から富士山を望むことができます。あれは都会のミラクルだと思うのよね。

【石割の湯】http://www.ishiwarinoyu.jp/