マキノ雅弘『映画渡世』とマキノイヤー

待つことがすべてだったある深夜、あまりの手持ちぶさたに本を開いたら止まらなくなった。マキノ雅弘マキノ雅弘自伝 映画渡世』(平凡社)。父マキノ省三が京都で活動写真を手がけるようになった、日本の「カツドウ」創世記、「父の活動写真と共に私が生れた」という通り、マキノ一族の人生はいつも映画とともにあった。幼少時から現場に出され、俳優、監督として現場で生きてきたマキノ監督の壮絶な人生模様。その優れた聴き手として、また膨大な資料をもとに編集をしたのが山田宏一さんと山根貞男さんの両氏。この本は、読んだことのない人ならその厚さに腰が引けるかもしれないけれど(一冊五百ページ弱の単行本で二巻立て!)、読んだ方ならその物語の面白さと深みに合点がいくはず。登場人物も、ちょっと映画を知っているひとならその豪華さに目まいがするだろう。マキノ一家に、バンツマ、アラカン山田五十鈴らの俳優たち、プロデューサーの永田雅一など映画界の人々。菊田一夫も熱海に登場し、マキノと永田と三人で夜通し脚本を書いたりもする。キャメラマン宮川一夫とはじつは小学校の同級生。友人山中貞雄が出征する前夜のことも描かれている。マキノ青年のよき相談相手となる末三郎兄貴がとても魅力的で、のちのマキノ任侠ものに登場する、正しいやくざ兄貴を思い起こさせる。マキノ省三忠臣蔵』焼失、父の死に目、『浪人街』、トーキー、芸者との恋、仲間たちとの闘い、そして母の死に目。ここまでが天の巻(上巻)の物語。すべて実話。

「強い奴、弱い奴、面白い奴、馬鹿な奴、色んな奴が集って――浪人街の白壁にいろはにほへとと書きました」

うわーっ、と夢中で読み終えたときには窓の外には朝がきていた。これはそういう本。当然ながらこの本のファンはとても多く、そういえば、渋さ知らズ不破大輔さんは二年前のヨーロッパツアーの道中にも持参して読み返していました。壮絶なのだけど、励みになるのだ。

そこに、タイミングよく東京国立近代美術館フィルムセンターからメールニュースが届いていた。二〇〇八年は、マキノ監督が生まれた一九〇八年から百年。「生誕百年 映画監督 マキノ雅広」特集が年明けから上映されるという。以前にもCS放送や特集上映などで観ることができた作品がまずは並んでいる。もちろん『次郎長三国志』もやって来る! 二月以降の第二部では、あまり目に触れなかった作品も取り上げられるそうなので、そこには『映画渡世 天の巻』で語られていた初期作品群も登場するのではないのかな。

映画渡世・地の巻―マキノ雅弘自伝

映画渡世・地の巻―マキノ雅弘自伝

映画渡世・天の巻―マキノ雅弘自伝

映画渡世・天の巻―マキノ雅弘自伝

【生誕百年 映画監督 マキノ雅広(フィルムセンター)】