ベルゲン急行と『ホルテンさんのはじめての冒険』

ベント・ハーメル監督『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007/ノルウェー)を観た。口数少ない紳士ホルテンさんは、首都オスロ〜ベルゲン間を結ぶノルウェー鉄道「ベルゲン急行」の運転士。「実直なホルテンさんの、はじめての遅刻」というハプニングから、いくつものアクシデントが連なっていく九十分間。少ない登場人物で(しかもホルテンさん以外は、画面をジャックする時間が極端に少ない)、説明を言葉に頼ることなく、ロングショットの多用や動作の反復によってストーリーを展開しようとする。地味ながら小気味良いミニマルな映画。押しつけがましくない人生讃歌と、鼻につかない程度のユーモア、寂しく美しい景色が、単線の地方交通線が頑なに線路を伸ばしているように決して途切れることなくつづいていく。

この映画の見どころは、あこがれのベルゲン急行! 冒頭、タイトル前後に映し出されるオスロの駅と、ベルゲン急行の車両にまずこころをうばわれる。車両基地で、転車台がカチリと動きを止めるまでのアップ。暗くて長いトンネルを抜けたとたんに広がる荒涼とした真っ白な景色、そこでキャメラは俯瞰へ。四両編成の青と白のツートンカラーの急行が雪の上を滑っていく。線路はもちろん単線。そのじつにクールな走りぶりにウットリ(旧型の赤い車両だったら、もうちょっと印象はかわいくなるのかもしれない)。スイスのベルニナ急行もベルゲン急行と同じ雪景色を走っていたとはいえ、当然のことだけれども、スイスとノルウェーでは車窓がまったくちがっていた。終着駅ベルゲンのホームに列車がすべりこむと、列車の鼻先が車止めに近づいてギリギリで止まる様子を、キャメラがちゃんと横からおさえている。ああ、にくいったらないね! こころのなかでキャーと歓声をあげてしまったよ。

じつはこの映画に関連してちょっと面白そうなお話をいただいています。まだナイショだけれども、打ち合わせも本番もたのしみなお仕事。ワクワク、世界には恋したい鉄道がなんて多いんでしょうね。 

【ホルテンさんのはじめての冒険】 ※渋谷Bunkamura ル・シネマでは4/17(金)まで上映


本日のおまけ。東十条駅ちかくの日本製紙物流の引込線(北王子線)の踏切そばでは、立派なキャメラをかついで貨車待ちしている方々がいました。桜並木と引込線と貨車、そりゃあいい絵にちがいないよね。

道路側から撮った、桜並木と貨車と団地のスモールコンボもなかなか。今年はこれまでにないほど春がカラフルです。