ミスハタリの北陸旅 白馬と大糸線

ムーンライトが夜を駆け、浅い眠りを経て早朝五時半。白馬の山並みは靄がかっていた。三年前の記憶では、八方口の足湯まではさほど遠くなかったはず。と、歩き出したもののなかなか着かない。なんと片道二十分以上もかかったのでした。乗り換えまでの一時間を足を休ませたのか酷使したのか、差し引きするとよくわからないけれど、じっと居眠りして列車を待つよりは断然たのしいからいいのだ。

白馬からは大糸線三年前に乗ってひと目惚れしたすてきな路線、言ってみれば今回のメインイベントのひとつ。電化されている南小谷駅までは現代的な電車でサラッと進むも、お楽しみはこれからだ。南小谷から糸魚川までの路線は、冬場の雪の深さのためにいまだ電化されていないという、なんとも味わい深いローカル線。赤い「キハ52系」気動車、もちろん一両のみでコロンと走る。うわー、かわいい! この大糸線、現在は三種類のカラーの「キハ52」が走っているそうで、わたしが乗ったのは朱色一色の「キハ52-156」という車両だった。途中の駅で黄色×赤のツートンカラーの「キハ52-115」とコンニチハ。

 
 
 

傾斜を登るときにグンと加速して気合を入れるところなんて応援したくなる。そしてなにより、併走する姫川の渓谷の美しさ。飽きることなくつづいていく車窓といい、国鉄時代を思い起こさせる古くてかわいらしい車両といい、大糸線には本当にローカル単線の愉しみがあふれている。いくら眠たくてもここでは居眠りはしないのだ。ボックス席の向かいでは、男の子がお父さんの膝のうえで寝ていた。きみが大人になって、いつしかこの列車が博物館でしか見られない過去の遺物になったとき、きみは、この赤い列車とお父さんと過ごした夏休みのことをどこかで思い出すのだろうか。

 

【ミスハタリの北陸旅 2007】
1 出発 2 白馬と大糸線 3 金沢前篇 4 金沢後編 5 のと鉄道と和倉温泉 6 飛騨路へ