ミスハタリの北陸旅 金沢前篇

糸魚川駅北陸本線に乗りかえて、すこし居眠りし、「おわら風の盆」で大混雑の富山駅を通り抜け、金沢まで。ドーム造りの東口からバスに乗り、まずは金沢城址公園そばのホテルへ荷物を預けに行く。お化粧をして、夜行列車仕様だったボサボサ頭をおすまし風に仕立てて、身軽になったら出かけよう。時は正午。はじめての町は、地図を眺めながら路地をひとつふたつと曲がるだけでとても楽しい。列車に乗ってどこかへ行くのは「冒険」で、自分の足で歩くのはどこにいっても「散歩」という気がする。特別なにを観るわけでもなく、花や家並みや看板や道路標識を見ながらふらふら歩いていると、この町に越してきたばかりのような気分になる。それはどこに行っても覚えるふしぎな錯覚。



まずは金沢の茶屋街のひとつ、浅野川沿いの主計町茶屋へ。夜の町なので昼間は人の気配も味もない。お茶屋の間に伸びるせまい暗闇坂をあがっていくと、静かな神社があって、どこかの家からお三味線の稽古の音がもれ聴こえてきた。どうにもへたっぴな芸者さんがいるようでちょっと笑った。橋の向こうのもうひとつのひがし茶屋街は、すぐそばまでバスで乗り付けてきた観光客と観光客相手のお店ばかりで上っ面の賑わいをみせていた。ここで生活をしている人たちは自分たちの生活を隠すのが上手だ。けれども、中が見えない紅殻格子の内側から音がして、耳をそばだてるとテレビのニュースだったとわかったとき、生活の尾っぽをつかんだような気がしてうれしかった。



歩ける距離だけれども、空腹で倒れそうだったのでバスでむさし辻の近江町市場へ移動。しかし今日はにちよう日! 市場はほぼ全滅。観光ガイドに載っている店のひとつに入り、カウンタでお茶をすすりながら「おすすめ:海鮮ちらし丼1380円 ※あら汁付き」を無視して、「白えびと生さんまをください、あと、あら汁」。これで満足、おなかいっぱい。わかってはいたのだけど、旅の時期を外してしまったのだなと、旬終わりの生白えびの軍艦巻き(それでも美味しかったけど)をいただきながら、ちょっと反省。ひとりで寿司屋に入られるのは、旅ならではの景気のよい冒険かもしれない(まあ、齢だけならもういい大人になったわけだしなあ)。

食後、ショートカットをするつもりで金沢城址公園に入ったら、予想以上に長い散歩になってしまった。途中の森で迷子になりかけた。まったく、子どもの冒険か!

そして金沢21世紀美術館へ。円形の美術館のぐるりを朝顔のつたが覆っている。これは日比野克彦アートプロジェクト「ホーム→アンド←アウェー」方式の一環、「明後日 朝顔プロジェクト21」。市民が朝顔を通じて美術館の「お出迎え」に参加し、その朝顔の種を今度は来場者が各地に持って帰り、翌年にはまたたくさんの町で花開くように、と、いう、朝顔を育てたことがあるひとなら、その繁殖のすごさとしぶとさに、一度は思いつき(実行してみたりもする)いわゆる朝顔ゲリラがアートプロジェクトに昇華されたものだ。


【日比野克彦アートプロジェクト「ホーム→アンド←アウェー」方式】

にちよう日の美術館は大混雑。無料エリアが多いためか、観光客や家族連れが群がっていた。ここでも間の悪さをすこし恨んだけれども、美術館が賑わうのは悪いことではないとおもう。何をするわけでもなく、ただぶらぶらするために、ヤンチャな子どもを走らせるために、日よけの通過のためだけにでも、美術館があってもいいと思う。SANAA妹島和世さんと西沢立衛さん)が設計するといううわさを聞いたのが準備期の数年前、その頃から訪れてみたい美術館だった。伊東豊雄設計の仙台メディアテークにも似て、ソファや椅子、なにげないオブジェに遊び心が配されているのだけど、仙台よりも自由でのびのびとした雰囲気。全体的にシンプルで、いわゆる「美術館」というより、ちょっときれいで広い「公民館」という雰囲気。


無料エリアには、天井が四角く抜けていて空の移り変わりを体感できるジェームズ・タレルの「タレルの部屋」、レアンドロ・エルリッヒの「スイミングプール」などのインスタレーション作品がある。「スイミングプール」は上から眺めると、下部にいる人がまるで水中に沈んでいるように見えるというもの。カラクリはアクリル板とほんのすこしの水。しかしちょうど展示替えで、肝心の下部が閉められていたので体験できなかった。

長期インスタレーションルームでは、「アトリエ・ワン」による金沢の町家に関するプロジェクトが発表中。さまざまに展開していく町屋の姿を町歩きによって収集し、それらを四世代に分類し、いろいろなネーミングを付けていた。「リーゼント町家」「引退町家」「引退口出し町家」など、笑ってしまった。

 

【アトリエ・ワン いきいきプロジェクトin金沢】


【ミスハタリの北陸旅 2007】
1 出発 2 白馬と大糸線 3 金沢前篇 4 金沢後編 5 のと鉄道と和倉温泉 6 飛騨路へ