ミスハタリの道北旅 3 帯広「北海道ホテル」

今回の帰省、なぜに札幌に直接帰るのではなく帯広によりみちしたかというと、それは「北海道ホテル」に泊まってみたかったから。稲葉なおと著『PAPA'S HOTEL』(講談社)というホテルガイドブックでも、建築的な観点から見ても面白い宿として紹介されている。建築は象設計集団によるもの。そうだ、奇怪な外観をした沖縄県名護の市庁舎を象設計集団が手がけたのは一九八一年のことだという。初めて目にしたときはビックリした。石造りの要塞のようだった。ただ、ふしぎなことに、そのあとにやってきたのはケッタイな異物感ではなくて、町の中に受け入れられているような自然な印象だった。

とかち帯広空港から市内ホテル行きのバスで約四十分ほど。帯広駅からすこし離れた立地なので、駅経由で来るよりもホテルに直行したほうが楽ちんだ。街なかの大通りに面したホテルとはちがって住宅地にあるせいか、正面玄関はすこし奥まっているし、建物自体にも派手さはないし、木々を背景にしているし、サイズ感もちょうどよいあんばい。外観はレンガ造りでちょっと洒落ていて、あ、象設計集団だな、と思わせる幾何学模様が効いている。レンガや木材など、すべて北海道産のものを使用しているというのが、このホテルの、象設計集団のこだわりなのだとか。「森の古城」なんて比喩もあるらしい、この雪と冬の木々に囲まれたホテルの中に入ると、ふんわりと暖かい。

チェックインを済ませ、ベルガールに荷物を持っていただいて部屋へ。シングル予約だったのだけど、ツインのお部屋に通していただけた。お部屋は「日高ウィング」の「スタンダードツイン」。シンプルながら、ちょっと落ち着くのは、窓のサッシや部屋の調度品が北海道産の木製ゆえだろうか。デザイナーズという言葉の印象とはほど遠い、ちょっと素朴な、山小屋の一室におじゃましているような気分。もちろん、「デラックスツイン」や、中庭に面した別棟「ガーデンウィング」などはお部屋の雰囲気もずいぶんとちがうみたい。

ホテル内をすこし散策。椅子のかんじが、ちょっと名護市庁舎に通じるね。

 
 

ドーム型のチャペルでは、結婚式も行なわれるらしい。フロントそばの暖炉には薪がくべられて炎があがっていた。ホテルのいろいろなところに、花がわさっと飾られている。ハイセンスなアレンジではなく、花畑から摘んできたものをそのまま花瓶に差したような素朴な味わい。その素朴さが、心地よさを生みだしている。

そしてこのホテルには、十勝モール温泉という天然温泉がある。世界でも、ドイツと十勝くらいにしか湧いていないという珍しい温泉、大昔の地中に埋もれた植物が黒炭になるときに出す天然成分によるものだという。きれいな浴場、平日のせいか貸切で浸かっていられた。肌触りはなめらかで穏やかなお湯。あめ色で、温度も低め。露天風呂もあり、ついつい長湯。なーんでーこんなおしゃれーなホテルにおんせんまでわいているんだー、と、とてもしあわせ。湯あがりには北海道限定の「サッポロクラシック」。そして、こちら帯広に本店がある六花亭のケーキ。チーズケーキもショートケーキも両方食べちゃうのだ。

  

ベッドの上で北海道時刻表を開き、旅の計画を練る。流氷が見たいな、「流氷ノロッコ号」に乗りたいな。明日はどこに宿を取ろうかな。ここに戻ってくる? 釧路で泊まる? 網走まで進む? 釧路から先、厚岸や根室の方にも行ってみたいな。北海道生まれの北海道育ちとはいえ、道東には子どものころに一度か二度、親戚のもとに遊びにきたことがある程度なのだ。帯広だって、動物園や世界で二番目に長いベンチに座ったことはあっても、豚丼を食べたことなんてない。まったくの旅人のわたし。

旅の神様と時刻表が味方してくれれば、きっと明日もすてきな一日になることでしょう。ややかためにしつらえられたベッドで寝返りをうちながら、まだ見ぬ明日の景色に興奮する。窓際の空気がひんやりと冷たく、冬の北海道の夜を主張していた。部屋の灯りを消したら窓ガラスごしに月の光がこうこうと差しこみ、わたしはなかなか眠れなくなってしまった。

→【北海道ホテル】
→【象設計集団】


【ミスハタリの道北旅 2008】
1 出発とおみやげ 2 『終着駅は始発駅』 3 帯広「北海道ホテル」 4 蒸気機関車と釧路湿原 5 川湯温泉紀行 6 流氷ノロッコ号 7 札幌「キコキコ商店」番外篇