ミスハタリの道北旅 2 『終着駅は始発駅』

昼すぎに出発する予定がちょっとした出来事があり、空港内で五時間ほど読書することに。旅の供にと鞄に入れてあった本を読了してしまった。それは、宮脇俊三『終着駅は始発駅』(新潮社)。昨年の大糸線〜北陸旅で寄った金沢「古書あうん堂」で買った古本。わたしが持っているのは一九八二年刊の単行本で、装丁・挿画は長新太さんの版。黄色いカバーがとてもかわいい。読み進めていくと、偶然にも北海道のローカル線に関する味わい深い紀行が多い。「汽車に乗るなら北海道」という見出しに頷いたり、今では廃線になってしまった路線の多さに驚いたり(この本が出版された昭和五十七年当時にも、相当な赤字線が多かったという話)。

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「旅は、ほんらい「線」であった。目的地があっても、そこにいたる道程のなかに旅のよさがあった。『おくのほそ道』にしろ『東海道中膝栗毛』にしろ、そこに描かれたのは「点」よりもむしろ「線」である。」(宮脇俊三『終着駅は始発駅』「点の旅と線の旅」)
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宮脇先生はそう言って、「青函連絡船は北海道への序曲! 飛行機でヒューンと出かけるなんてもったいない!」と言うのだけれども、まあ、初めての北海道ではないし、そもそも生まれ育った土地だし、列車と船を乗り継いで北海道を目指すのは数年前にやっているので(ムーンライトえちごで夜を越え、秋田の鄙びた秘湯に泊まり、日本海側をのんびり北上し、青森→函館は夜行船で渡り、函館の朝市で腹ごしらえして、長万部倶知安経由で札幌に着いた、三日間に渡る旅路)、今回は許していただくことにしよう。でも、宮脇先生の言うことはもっともだ。そうだ、帯広からすぐ札幌に特急列車に乗るのではなく、どうせなら、のんびりとよりみちをしよう。そう思いついたのは、この数時間の読書のせいかもしれない。

「赤字線の乗りごこち」という章がある。美幸線、白糠線、深名線など、今では廃線になってしまった赤字路線について、様々なデータを紹介しながらもその旅情について愛情をもって語っているエッセイだ。そういえば、子どものころには北海道にも細かい路線はあったのになあ、しかもなんと盲腸線(行き止まりの路線)が多かったことか。本書内の「北海道の大赤字線めぐり」の図を今の北海道路線図と照らし合わせてみると、北海道が実に廃線天国だということがわかる(って、へんな言葉だけど)。
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「網走を発車したディーゼルカーは、刑務所の赤レンガの建物を右に見ながら石北本線と分れ、まもなく網走湖の北岸を走る。(中略)湧網線の車窓から流氷の眺められるのはここだけで、時間にして五分だけである。流氷をもっと見たい人は、釧網本線の斜里―網走間や興浜本線に乗れば堪能できるだろうが、高い位置から見渡せるだけに、区間は短いながら湧網線の流氷は圧巻である。」(宮脇俊三『終着駅は始発駅』「赤字線の乗りごこち」)
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このくだりを読んで釧網線に乗って流氷を見ることに決めた。湧網線(興浜本線も)は廃線からしようがないのだ。読み終えたころには、夕陽が飛行機を照らしていた。

終着駅は始発駅

終着駅は始発駅


【ミスハタリの道北旅 2008】
1 出発とおみやげ 2 『終着駅は始発駅』 3 帯広「北海道ホテル」 4 蒸気機関車と釧路湿原 5 川湯温泉紀行 6 流氷ノロッコ号 7 札幌「キコキコ商店」番外篇