ミスハタリの秋田旅 2 「あけぼの」の青い夜

「あけぼの」の五号車、「B寝台ソロ」がわたしの今夜の寝床。みどりの窓口で知ったような顔をして「真ん中へんの偶数番がいいです」と指定したのは二階個室が良かったから。車両の真ん中あたりがもっとも揺れが少ないというし、二階個室なら寝転がりながら夜空を見上げられるものね。車両の真ん中が廊下で左右両側に個室が配置されている。二階席は階段がある分だけ一階よりもすこし広いはずだけれども、それでもやはり最初は「せまっ!」と言ってしまうサイズ感。

 
 

写真左が二階個室で、右が一階個室。たしかに狭いのに、いったん部屋の中に入ってしまうと意外と快適。むしろ守られているような安心感まであってふしぎと落ち着く。カーブドガラスが苦手なひとは酔うかもしれないけれど、わたしは平気なのでずっと窓の外を眺めていた。

会社帰りに一杯呑んだひとたちで混み合う、金曜22時すぎの大宮駅ホーム。旅人はせわしない世の中を見下ろしながら、ちょっと得意げに駅弁を開く。上野駅限定の「上野弁当」はおいしかった。車窓がすっかり暗くなり夜が更けてきた。部屋に備え付けのJR浴衣に着替えて過ぎ行く夜旅を楽しむ。

 
 

高崎線を過ぎて上越線に入ったあたりから旅心は高まる。水上駅はさすがそこそこに大きな駅のためか電灯も多く、ほのかな明かりに浮かび上がった夜桜がきれいだ。そのあとは十数分も続く長いトンネルに入る。湯檜曽駅、地上まで上がる450段以上の階段が有名な土合駅。ふたつのモグラ駅を過ぎ、長いトンネルを抜けると四月のなごり雪が見えた。新潟県に入ったのだ。

すこしうとうとしているあいだに「あけぼの」は上越線信越本線を颯爽と下り、はっと目が覚めると新津駅通過で午前二時過ぎ。列車の揺れはここちよく、暖房を止めたせいか窓際はすこし冷たい。うたた寝をしては目が覚ますことを繰り返しながら、羽越本線を北上し、余目駅停車が4:51、朝の到来。まだ眠っている大半の乗客を起こさないように列車は静かに走り続ける。すこしずつ夜が明けていく様子をかぶりつきで見ていた。北西の方向に見える鳥海山に白い雪が積もっていてきれいだ。雨雲がきれて日が差してきた。6:24、秋田駅が近づいてきたところで車掌によるおはようアナウンス。一気に列車のなかにも朝が広がる。窓の外には青空も見えて、差し込む朝日がまぶしいくらいだ。

秋田駅を過ぎたあたりからすこし様子がおかしくなる。強風のために徐行運転が強いられて、すこしずつ「あけぼの」は遅れていく。急ぐ旅でなし、構わない。鷹ノ巣駅では定刻から四十五分の遅れだった。秋田駅東能代駅で多くの客が降りたのか、青森に向かう列車のなかはだいぶん涼しくなっていた。鷹ノ巣駅で降りたのはわたしを含めて十人くらいだった。

青森へ向かう「あけぼの」の後姿を見送って、わたしは北国に降り立った。




【ミスハタリの秋田旅 20080418-22】
1 上野駅13番ホーム 2 「あけぼの」の青い夜 3 キュートな秋田内陸縦貫鉄道 4 五能線センチメンタル 5 男鹿なまはげライン 6 山荘「駒ヶ岳温泉」 7 青空と桜、田沢湖と角館 8 角館「田町武家屋敷ホテル」と桜旅終章