ミスハタリの秋田旅 8 角館「田町武家屋敷ホテル」と桜旅終章

新潮社記念文学館や武家屋敷の西宮家のある田町武家屋敷通りにも、桜がきれいに咲いている。桜以外もきれいに花開いている。うわ、『椿三十郎』の邸宅みたい!

桜時期の角館、宿の確保が今回の旅計画のポイントだった。すでに二ヶ月前(!)に角館駅に隣接したフォルクローロ角館は予約を締め切っていた。町の中心という好立地に建つ観光ホテルは安いし空室もあるようだが、いまいち風情に欠ける。そこで博打気分で予約したのが、「田町武家屋敷ホテル」。田町武家屋敷通りに面した民芸調のプチホテル。この「民芸調」「和風モダン」というのが不安要素ではあったのだけれども、母娘の旅行になにより大事なものは「雰囲気」。ええい、ここは博打なのだ!

 

田町武家屋敷ホテル、その蔵造りの建物はたしかに「和風モダン」。この「風」が本物とはちがうというのは歴然としているけれど、足りない歴史はどうしたって補えない。そこを親切な接客とまじめなもてなしでカバーしようとしているのが、この宿のすてきな魅力だった。

館内には和室と洋室が数部屋ずつある。ハタリ母娘は一階の和室に宿泊。窓の外は小さいながらもきれいに整えられた玉砂利敷きの中庭。思いのほか静かでほっとする。部屋に入ってまずお菓子とコーヒーを出していただいた。ママハタリは、両手にすっぽりおさまるカフェオレボウルのようなお茶碗の色合いに惚れ惚れしている。バストイレ付きではあるのだけれども、ホテルの方は近所の「かくのだて温泉」を勧めてくれた。歩いて数分の距離だけれども車で送迎もしてくれるらしい。かくのだて温泉は町のひとも日常的に利用しているような銭湯だった。お湯は透明であっさりとしていた。

「きりたんぽが食べたい」というママハタリからの夕食リクエストを受け、町のマップや部屋置きの広告などを見て調べるも、やはりこういうときこそ頼らねばと、ホテルのフロントで、この時期にきりたんぽ鍋が食べられるお店を尋ねてみた。支配人らしき紳士が「うーん、いくつかありますが、☆☆でしょうか」とのこと。☆☆というお店は町ガイドブックを見るかぎりはとてもおいしそうなのだけれども、携帯電話で調べた口コミでは接客評判がとても悪いのが気がかりだった。「わたしもちょうどその方面に行くので、ちょうどいいですね、お送りしましょう」と支配人が笑った。その厚意に甘えることにした。お店の前で車を停めて、支配人が先に引き戸を開けた。「こちらのお客さまに、きりんたんぽ鍋をお願いしたいんですけど、いいかな?」。返ってきたのは歓迎だった。接客してくれた女性はとても感じのよい方で、お酒も呑まないでひたすらきりたんぽ鍋を食べようとする母娘にも優しく接してくれた。口コミのような不快な思いをすることなく、比内地鶏ごぼうの滋味、きりたんぽのボリュームにすっかり満足して、汁まで平らげて胃袋も満足。

腹ごなしに夜桜見物の散策。暗い道にあふれかえる観光客はあいかわらず多く、ママハタリはまた、堀に落ちそうになっていた。ライトアップされた川沿いは昼とはちがった優美な姿を見せ、枝垂れ桜にいたってはもはや妖艶の域だった。宿のそばにも立派な枝垂れ桜があり、夜遊び帰りのわたしたちを迎えてくれた。部屋に戻ると青畳の上に藍染の寝具が敷かれていた。あまりに多くの桜を見たその夜は、夢のなかまで桜色だった。

翌朝は併設のレストラン「樅の木亭」で朝ごはん。ほかの宿泊客も女性グループや夫婦が多いようだった。旅先の宿に「安心と安全と快適さ」を求める年配の女性にとって、とくに快適な宿なのだと感じた。そうそう、フロントでは角館みやげに適したさまざまな雑貨を販売していて、ママハタリが惚れこんだお茶碗をひとつプレゼントした。わたしはうさぎの焼印がついた愛らしい下駄を買っていただいた。ふと見ると、昨日は展示されていた藍染の手提げ鞄がなくなっていた。フロントの方に尋ねると、「手づくりの一点ものなんです。わたしが作っているので、なかなかたくさんは作れないんです」とのこと。

「民芸調」の宿が、自分たちだけの新しい「民芸」を作り出そうとしている、そんな、好感のもてる新興の宿でした。

【田町武家屋敷ホテル】 仙北市角館町田町下丁23 予約専用電話:0187-52-1700


===========================

角館の終章。町の酒屋でおかみさんが次から次へと出してくれる純米吟醸を試飲して、頬を桜色に染めた下戸ハタリは、この旅三度目の「こまち」に乗って東京へ。とちゅう、盛岡駅にて「秋田新幹線 こまち」と、八戸からやってきた「東北新幹線 はやて」の連結部を見るためにホームを走り(かんじんの連結作業中は、後から到着したこまちの乗客であるわたしは、開かないドアの内側であれこれ想像してヤキモキするしかないのだけど)、パシャパシャと写真を撮っていたら乗り遅れそうになったりして。てへ☆

それらはすべて、四月に起きたおもいがけない幸運。前半は寝台列車「あけぼの」ではじまった、秋田と青森をめぐる鉄道の旅。後半はママハタリとの温泉と桜の散策。鉄道、夕陽、秘湯、食欲、そしてほんのすこしの親孝行。思っていた以上にもりだくさんな春の「旅/旅行」となりました。旅の神様、どうもありがとう!



【ミスハタリの秋田旅 20080418-22】
1 上野駅13番ホーム 2 「あけぼの」の青い夜 3 キュートな秋田内陸縦貫鉄道 4 五能線センチメンタル 5 男鹿なまはげライン 6 山荘「駒ヶ岳温泉」 7 青空と桜、田沢湖と角館 8 角館「田町武家屋敷ホテル」と桜旅終章