ミスハタリ 水の旅 6 大糸線の恋

午前5時半にベッドから飛び起きる。コーヒーをのんでドーナッツの朝食を済ませ、早く出るには惜しい快適なホテルをあとに富山駅へ。今日も晴天。6:32、直江津行きの北陸本線各駅停車が富山駅を出発。北陸本線でお馴染みの白とブルーの車両。正面の顔が平べったく、シンプルなラインの使い方にも、なにか北欧かどこかに通じるデザインのセンスを感じる。JR西日本の古い列車には、東日本や北海道とまたちがう文化があるようで新鮮だ。そうそう、富山に立ち寄った証に、ますのすしの握りめしを食べるのも忘れずにね。

 
 

北陸本線糸魚川〜富山間は、わたしにはあまり面白みのない車窓で(黒部立山連峰を望んだり、突然テトラポット畑に出るのにはびっくりするけれど)、あてにしていた海もさほど見えないというのは学習済み。しかし糸魚川のひとつ手前の青海駅では、名前通りにすばらしい朝の海が見えた。

7:52、糸魚川駅到着。いそいそと跨線橋を渡って大糸線ホームへ。よかった、レンガ車庫も顕在だ。

待っていたのは、昨年「南小谷糸魚川」に乗ったとき(→☆)と同じ朱色のカワイコちゃんの「キハ52-156」。気動車、単線、赤い列車。わたしの恋心をそのまま描いたかのような、大糸線非電化のこの線路と列車。フォトジェニックな車両と風景のため沿線にはカメラを構える「撮り鉄」の方々を多く見ることができるし、、車内では「乗り鉄」がわくわくと窓の外を眺めている。その一方で、この沿線の住民の方々や、旅行中の家族などが、居眠りをしたり、ときどきおしゃべりをしていていたりと、たった一両のキハがなんともここちよい時間を運んでいるのだ。

現在、大糸線南小谷駅糸魚川駅間を走る車両は三種類あり、JR西日本金沢支社糸魚川地域鉄道部によるお知らせサイトで、どの日のどの時間にどの列車が走るかを確認することができる。どれもカワイイのだけれども、やっぱり赤い列車というのはいいなあ。ひさびさの再会がうれしくって、乗ったり降りたり遠めから眺めたりと、出発前のひとときを忙しくすごす。

 
 

忙しすぎて、糸魚川駅限定発売の「大糸線グッズ」を買いそこねたのが悔やまれます。またここに来る理由ができてしまったじゃないか!

8:15、糸魚川駅出発。時刻表に目をやると、上下線とも根知駅停車が8:32。ここで列車の待ち合わせというのがわかる。うわあ、向こうからやってくるのは何色の列車だろう(いまわたしが朱色に乗っているということは、残りは「黄色×赤」か「黄色×青」の二種類しかなく、わたしはだんぜん黄色×赤がすきだ)。糸魚川駅近くの住宅がまばらになり、姫川駅そばのトンネルを抜けると、車窓はきゅうにのんびりした景色になる。これまで南小谷駅から糸魚川駅に向かうことが多く、逆ははじめてだった。海へと流れ出る河口近くから逆走して、景色がどんどん山に入っていくのが新鮮だ。右手にコンクリート工場、遠くにはアルプスの山々が見えてきた。左には田んぼ、朝日を浴びた緑が色濃くてとてもきれいだ。頸城大野駅のあたりはのどかな田園風景。

頸城大野駅を出ると、とたんに緑の分量が増える。単線は山を分け入って進む。単線ってほんとうにいいよなあ。

根知駅で列車待ち合わせのため、二分弱の停車。「ホームに降りていいですか」とおじさんが運転手に声をかけた。「いいですよ」。ドアを手で開けホームに降りる。手前の踏切が鳴りだす。列車が見えた。うわー、黄色×赤のツートーン「キハ52-115」だ、かわいいったら! 気合と愛情でシャッターを一度だけきるとすぐに車内に戻った。単線をゆずりあい、ダイヤを乱すことなく列車は出発する。


根知駅を出ると姫川が登場。遠くにあった川がどんどん線路に近づいてくる。列車は何度も何度も川を渡る。小石の多い、穏やかな流れ。小滝駅から平岩駅に向かう間はトンネルが多いけれど、トンネルを出るたびに、朝日の美しさと川と緑の表情が際立ってすばらしさが増すのだ。トンネルの暗闇で加速し、橋の上ではこれでもかと減速する。左に、右に、姫川が姿を見せる。窓に額を寄せて、車窓にかぶりつきな数分間。本を読んでいたひとたちも窓の外を眺めている。


平岩駅で登山客が乗車してきた。白馬の登山口になるのか、駅前も多少開けているようだ。川に堤防が増え、野趣が消える。古びた発電所が見えてきた。もうすぐ南小谷に着く。気もちがじょじょにクールダウン。右側の窓から見える南アルプスの山々は涼しげで、長野の夏を目でかんじる。平岩、北小谷、中土と走り、9:17、南小谷駅に到着。ほうっと息をつく。終わっちゃった……。

後ろ髪を引かれながら、跨線橋を渡り、白馬方面に向かう大糸線のつづきに乗り換える。ここからは電化路線なので電車が走っている。キハ好きには物足りないのだ。大好きな大糸線(非電化)、また乗りにくるからね。うん、これはまちがいなく恋なんだなあ。



【ミスハタリ 水の旅 20080802-03】
0 水と緑と鉄道とわさびの幸福(ダイジェスト) 1 かなわぬ夢、越美南線(長良川鉄道) 2 郡上八幡、河童の飛躍 3 添い遂げゆく水、高山本線 4 猪谷駅の宝物 5 富山「オークスカナルパークホテル」 6 大糸線の恋 7 白馬「倉下の湯」再訪 8 穂高安曇野わさびの風