ミスハタリ飛騨路を行く 3 飛騨古川「八ッ三館」」

夕暮れの飛騨古川の町を歩き、荒城川に架かる橋の向こうに見える旅館「八ッ三館」。創業安政年間、飛騨商家造りの棟が美しく残る老舗の料亭旅館。

「八ッ三(やっさん)」という屋号は、初代の三五郎さんが越中八尾出身だったことに由来するといいます。上がり框にはひな壇に活けられた素朴で可憐な草花が、客人が草鞋を脱ぐのを待っている。

玄関がある棟は昭和初期に建てられたもので、まず応接洋間に通されます。そこで季節の御菓子「栗よせ」と抹茶(薄茶)をいただきながら宿帳を書きます。その後、仲居さんが館内について説明をしながら、お部屋へ案内してくれました。

 
 

明治時代に大火に遭ったのち、明治三十八年に再建されたという、再建といってもじゅうぶん古い飛騨商家造りの「招月楼」。こちらの客間のひとつ「大黒」が今宵のお部屋。この宿の三棟が国登録有形文化財だという。赤い和ろうそくの灯りが照らす畳敷きの廊下を進んでいくと、吹き抜けの囲炉裏間に出る。すばらしいったらないね。重厚で赴きがある建物、保存も大変なことでしょう、手入れが行き届いていて、木の柱もつややかでうっとり。さて、その「大黒」、三間もあってぜいたくな気分。窓を開けると眼下には先刻渡ってきた清流、川向こうには飛騨古川の三寺のひとつ、本光寺の大きなお堂が見える。そして目の前にはしなやかな姿のもみじ。古い造りながら、洗面所は最新型、館内着と浴衣と足袋靴下が用意され、御菓子(飛騨古川起し太鼓せんべい、神戸のゴーフルのような御菓子でおいしかったなあ)、箪笥の上には裁縫道具もあり、夕食後には机の上にお夜食の差し入れ。すばらしい。

お風呂も快適、食前酒からはじまる個室での夕食は、さすが「料亭」だけあって見目麗しくおいしく手がこんだ飛騨料理。子持ち鮎の塩焼きが、この秋に花盛りの秋明菊と一緒に出されます。

そのほかにも、先付、小鉢、八寸もある前菜盛り合わせ、松茸の土瓶蒸し、富山日本海のお刺身、豆腐の温物、飛騨牛のミニステーキなどなど、たくさんのお料理がつづきます。本日のお食事は高山八幡祭のお祝いでお赤飯。〆のリンゴのコンポートに至るまで、ため息ばかり誘いだされるすばらしい献立でした。そのすべてを仲居さんが丁寧に説明してくれます。二時間近くかけていただきました。すっかり満腹!

その食事中に女将さんが挨拶にいらして、館の歴史や『あヽ野麦峠』の舞台となったことや時代背景について説明してくれます。部屋の窓から見えたあのもみじは十一種類のもみじを接木して六種類が枝を伸ばしているので、よく見るとちがう葉が見えますよ、といったお話も。これまで知ったようなふうに書いてきた宿の由来などもすべて説明してくれました。

お風呂のあとには、リラクゼーションルームでマッサージチェアに揉みほぐされて極楽気分。朝風呂、朝ごはん、宿を出るときまで、すべてに行き届いたおもてなし。老舗の歴史に恥じないどころか、進化している宿なのだなと感心した次第でした。

【八ッ三館】 岐阜県飛騨市古川町向町1-8-27 電話 0577-73-2121



【ミスハタリ飛騨路を行く 2008/10/09-12】
1 岐阜「ダイワロイネットホテル」 2 秋晴れの高山「八幡祭」 3 飛騨古川「八ッ三館」 4 手垢の生活と白川郷 5 高山「スパ ホテル アルピナ」 6 安房峠越えて松本へ