北東北&北海道 冬のより道 4 うみねこ八戸線、津軽海峡の夜


14:41に久慈駅到着。ここからはJRの八戸線に乗りかえて、久慈から八戸に向かって海沿いを走ります。八戸線のホームにはすでに列車が停まっていた。キハラブ! 白×赤のツートン(盛岡色)も爽やかで好ましい。車両はキハ40系(キハ40-554、559、563の三両編成)。キハ40系といえば東日本では昨年春に乗った男鹿線なまはげライン」(→)、あれはこの赤い色の部分が緑で、色ちがい。

 
 

14:46久慈駅しゅっぱつ。八戸到着予定は16:44、約二時間という映画一本分の車窓だ。窓際に座って海を待つ。元旦の八戸線はとても空いていて、ここまで来ると帰省客も減り(正月パスを使って帰省するとしても、八戸まで新幹線で行くだろうから、八戸からの上りならまだしも、下りに乗り合わすことはまずない)、この土地で暮らすひと以外には、元旦に旅する物好き(別名鉄道馬鹿)と、暦の読めない旅好きくらいしか見かけない。わたし? わたしは、もちろん後者だ。

八戸線は相当にゆっくりとした足取りでのんびりと北を目ざす。いわゆるローカル線の旅情と慕情にあふれる走りぶり。列車の左側の車窓には山々が連なる。やはりこのあたりも雪が少ない。草原に細い木々が丸裸ですきまをあけて立っている、その様子は、四月に乗ったアルハンゲリスク〜モスクワ間を延々十数時間走り続けたロシアの車窓とすこし似ていた。夏の青い車窓も、観光路線の華やかな桜やあざやかな紅葉もいいけれど、わたしはこんな閑散とした丸裸の冬を眺めるのもすきだ。

陸中中野駅の手前で海が見えた。高いところに線路が敷かれているので海を見下ろす。岩場に白波が立っている。15:15の海。

その次の有家駅は砂浜沿い。晴れた穏やかな冬の一日は、エピローグへと向かう。午後の陽射しが傾き、夕陽へと表情をかえる。北国の冬の日は短い。海面や砂浜にはうみねこが群れていた。そういえば八戸線にはかつて「うみねこ」という名の急行や快速列車が走っていたという。いまは一日一往復の「ジョイフルトレイン うみねこ」が走っている。うみねこときくと、なでたくなるけれど、うみねこはねこではない。角の浜駅をすぎると青森県に入る。16:18鮫駅。このあたりで日が暮れた。

鮫駅〜八戸駅間には「うみねこレール八戸市内線」という愛称がついている。男鹿の「なまはげ」に対して「うみねこ」は、同じひらがな四文字でも愛らしいニャー。

大きな水産工場が建ち並び、長い滑り台のような建造物が圧巻だ。海から離れ、陸奥湊駅で下り列車の待ち合わせがあってしばし停まる。終点がちかづいてくる。小中野駅のあたりはすっかり町と工場ばかりだ。これから列車が進む先、夜のはじまりの空には厚い雪雲が迎えているのが見えた。しばらくして列車は雪の町に入りこんだ。16:44、八戸駅到着。

八戸線に揺られた二時間は、なにもないことの快楽を感じた時間だった。線路があって列車が走る、それだけがなんとおもしろいことか。

踏み切りですらフォトジェニックなのだから、旅ってのはいいものよね(ひとりごと)。

さて、八戸からようやく札幌行きの進路に戻ります。いくら東北新幹線が延びたところで、浮気心はあいかわらずなのです。さあ、日が暮れたのでおとなしく歩を進めましょう。17:07八戸駅発「スーパー白鳥21号」、クハ789系、津軽海峡線を走るのだ。八戸駅青森駅東北本線青森駅中小国駅津軽線JR東日本エリア。中小国駅から先はJR北海道管轄で中小国駅木古内駅津軽海峡線木古内駅五稜郭駅江差線五稜郭駅函館駅函館本線を走る特急列車。

JR北海道の特急列車、顔はいまいちかわいくないのだけど、その走りは信頼できます。

  
 

さすがの特急列車。座席には海底トンネルについてのていねいな解説図もあり、「これから海にもぐるのだ」という高揚感をあじわえます。八戸駅を出て三沢や野辺地で乗客の多くを降ろし、青森駅では出発を待っていた上野行き寝台列車「あけぼの」(これも昨年春に、上野発秋田行きに乗ったのだ→)とホームでとなりあわせになり、青森駅を出たあとには蟹田駅で停まっただけで、そのあとは竜飛岬近くのトンネル入口を目指して無言で走っていく。

じょじょに民家や電灯が減り、あたりが暗くなる。青函トンネルへともぐるまでにもいくつかトンネルがあるのだけれど、夜と闇とでトンネルの内外の区別がむずかしい。トンネルにもぐるたびに電光掲示板に「大川平トンネル」や「第二今別トンネル」「第一浜名トンネル」などと案内が出て、まだ本州ですよと教えてくれる。どんどんトンネル間の間隔がせばまり、まだかなまだかな、またかまたか、そろそろいいだろうと感じたところで、快走する特急列車は「第四浜名トンネル」を抜け、合計九つ目、次にもぐったトンネルが青函トンネルだった。18:58、そこから海の下と頭で知っているからか、とても暗く静かな先に向かっていくようなふしぎな感じがした。

青函トンネルは昨年でちょうど開業二十年。中学校の修学旅行でもぐったのが初体験だった。その後、北斗星でももぐったりしたけれど、起きて乗るのはひさしぶり。ただの暗いトンネルで、入ってしまえばたいくつなだけなのに、それでも興奮気味なのが自分でもおかしい。

約90分間の海底時間をすごし、19:23に北海道側の出口へ抜ける。20:09函館駅到着。おなかがすいたので、今日の旅はここでおしまいです。


【北東北&北海道 冬のより道 2009/01/01-02】
1 正月パスと東北新幹線 2 ノスタルジック山田線 3 三陸鉄道、潮風と晴天 4 うみねこ八戸線、津軽海峡の夜 5 函館/ロワジールホテル函館 6 冬の道央から函館本線山線へ