ミスハタリの春陽南風旅 6 浜比嘉島・後篇〜日なたの散歩

浜比嘉島の時間が正午近くになったら、砂浜からはなれて、日なたの道をしばし歩きます。まだ三月半ばだってことを忘れさせるほどの陽射しの強さ。雨傘を日よけにしてずんずんと歩くのです。

島の散歩は、ホテルのある比嘉地区を迷うところからはじめましょう。浜比嘉島は「浜」と「比嘉」のふたつの集落にわかれている。昨夜、ホテルのお食事どころの紳士が泡盛をサーブしながら教えてくれた「築百年のおばぁの家」こと吉本家へ。

「気のいいおばぁだから、声をかけると家にあげてくれるかもしれないですよ」と言われていたので、そのとおりに「こんにちはー」と大きな声を出したのだけれども、留守なのか静かだ。わたしたちの声だけが、あたりの石垣にぶつかって乾いて響いた。コンビニエンスストアなんてひとつもない島、食料品や日用品を扱う店と呼んでよいものかわからない家は、ガラス扉を閉めたままひっそりとしていた。一方、どこかの家の開け放たれた扉からは、お昼のニュースが聴こえてきた、ラジオ放送だ。

比嘉の集落を抜けて農道を歩く、ひたすら日なたばかり。

 

意外なことに、行きついた先には緑が茂っていた。琉球をひらいたといわれる男女の神々アマミチューとシルミチューが住んだというシルミチュー霊場は木々と岩に囲まれた洞窟だ。ちょうど土地の女性が三人お参りにきていて、掃除をして奥に入って火を灯していた。子宝の拝所といわれる場所だからか、ただお参りしているだけなのに、秘儀のようでドキドキする。海に突き出た小島のアマミチュー墓は、ふたりのお墓だという。

 

ひたすら歩いて今度は浜地区へ。道路標識もわかりやすいです。

 

浜に入るとすぐに港が。漁港好きなモモちゃんはこの旅いちばんの興奮。


浜の集落には学校があったり教会があったり、比嘉よりもにぎやかな印象。お昼ごはんを食べた「むいにー亭」(たぶん島に来た観光客のほぼ全員がお昼ごはんをここで食べるのではないかとおもう)も学校の裏手にあります。

すこし遅めの昼ごはんを食べ終えたら、あとは山を抜けて戻ります。月桃の葉がわさわさと茂る山道をずんずん登っていきます。ああ、もうすっかり海が遠い。


 

山を下って、午後三時半をすぎたところで散歩はおしまい。ホテルの入口で傘をたたんで、それでも日に焼けたような気がする肌をいたわりに階上のお風呂へ。モモちゃんはまた海へ行くといってききませんでした。すこし日が傾いた時間の展望風呂にはやはり誰もいなくて、湯気ごしに海を眺めながらぷかぷかと浮かんだりしながら、ゆるやかに極楽を味わう。そしてもちろん、風呂あがりのからだには、オリオンビールがライトにしみわたるのだ。

いい気分でテラスに出て赤ら顔になり、じょじょにエピローグへと向かう海を眺めていたら、きゅうにいてもたってもいられなくなった。夕暮れのしっぽをつかまえに部屋を出た。ホテルの中庭、水が張られたプールの脇を通り、浜辺への長い階段を下って砂浜へ。

 

岩場の上に体育座りをして赤く染まる西を眺めたら、浜比嘉島での一日が終わります。


そして、わたしたちはやっぱり島らっきょうの天ぷらなどでおいしい泡盛を呑み(やっぱり今夜も酔いどれになって)、ゴキゲンな足どりで部屋に戻り、テラスで月光と夜風にあたり、快適なベッドでぐっすりと眠った。そしてのん気な夢のあとには、また新しい朝日がお酒の残った寝顔をまぶしく照らして、一日のはじまりを告げるのだ。

海と空がまぶしいレストランで、滞在二度目の朝ごはんをもりもり食べて、再訪を誓うのです。

また来たい場所が増えました。サンキュー、旅の神様。サンキュー、ゆかいな友だち。おかげでよい旅ができました。三月の気分を上書きしたところで、この旅を終わります。


【ミスハタリの春陽南風旅 2009/03/14-17】
1 かしましディープ那覇 2 那覇「ナハナホテル」 3 那覇・のんきな猫散歩 4 浜比嘉島「ホテル浜比嘉島リゾート」 5 浜比嘉島・前篇〜波と光あるところ 6 浜比嘉島・後篇〜日なたの散歩