平岡正明『ジャズ宣言』

一昨日の夜、風呂上がりの部屋にはなかなか風は通らなくて、灯りを消してカーテンを開けた。その夜は奇妙なまでに丸い満月だった。数時間前、港町のまだ高いところに浮かんでいたそれは、ななめ下まで落ちていた。汗が引くのを待たずにカーテンを閉める。やはり灯りをつけよう。本棚から手に取った本は、平岡正明『ジャズ宣言(復刻版)』。数年前、わたしは浅草の古書店で見つけた。一九九〇年に現代企画室から出された「日本語版第三版」で、最初の版はイザラ書房刊、一九六九年。「日本語版」というのは「まだ外国語版がないだけだ。」とのこと。

平岡さんはこの「日本語第三版への序」でこう書いている。

「読み返すと知識不足がところどころ目につくが、変えない。49パーセントまちがっていても51パーセント正しければよい。思想というものは、著述家がどんなにまちがえようと個性のありたけを傾けても、10パーセント以上はまちがえられないものだ。49パーセント誤爆できたら、奇蹟の、革命的な書である。」

どんな感情をもつことでも、感情をもつことは、つねに、絶対的に、ただしい。ジャズがわれわれによびさますものは、感情をもつことの猛々しさとすさまじさである。あらゆる感情が正当である。感情は、多様であり、量的に大であればあるほどさらに正当である。感情にとって、これ以下に下劣なものはなく、これ以上に高潔なものはない、という限界はない。瀆神、劣情、はずかしさ、憎悪、うぬぼれ、卑怯……これらはひとまえでだしにくいが、しかしそれらの感情をもつことがただしいのみならず、場ちがいで破壊的な感情がめばえたときにでも、その感情をもつことは絶対的なただしさがある。
平岡正明「ジャズ宣言」1967.6)

六月二十二日に発売になった「ジャズ批評 2009年7月号」は、創刊150号記念特別号として、創刊号をまるごと再録しており、この「宣言」全文を読むことができます。

ジャズ批評 2009年 07月号 [雑誌]

ジャズ批評 2009年 07月号 [雑誌]

前衛ジャズと呼ばれていたものだけではなく、いまだすべての「動くもの」に有効な宣言だと、改めて圧倒されるのです。