秋の日の奈良さんぽと「くるみの木」

大阪から東へ向かい生駒山の腹にあいた長いトンネルを抜けると、そこはもう奈良。生駒山には先日、宝山寺や山上遊園地に出かけたばかり。山のてっぺんには紅白のテレビ塔がいくつも立っていて、遠くからシルエットで眺めるのもすぐそばで見上げるのもどちらもなかなかいい(→ ☆2009/10/24の日記「九月、十月、ハタリの散歩道」)。京阪電車で京都に行ったときも、芦屋のお友だちを訪れたときも、神戸に器を見に行ったときもそうだったけれど、関西では町と町が思っていた以上に近い。数日前までの寒さなんて忘れたかのようなのんきな秋晴れの朝、猫に留守番を頼んで、人生の先輩タカコさんと奈良遠足へ。

奈良を訪れるのは高校時代の修学旅行以来。まずは奈良公園。休日終わりの水曜日だというのに、にぎわっています。


冬になると実が白くなるそう。


小さいシカは今年生まれかな。


どうもどうも。

東大寺の南大門をくぐり、修学旅行生や団体観光客でにぎわう大仏殿の前を通りすぎて、戒壇戒壇堂へ。ここまで来るとシカもセーラー服も見かけません。

戒壇堂とはお坊さんの受戒を行なうところで、受戒というのはかんたんに言うと僧侶としての約束ごとを仏前で誓う神聖な儀礼のこと。と、後からきたグループの先生がわかりやすく説明しているのを盗み聴いてにわか勉強。お堂の中には四隅に奈良時代の四天王の塑像が置かれ、ぐるりと一周しながら背中からも見ることができてすばらしい。中央には多宝塔があり、その中には銅の釈迦仏と多宝仏の銅像が置かれていました。戒壇堂という場所柄か、背中がしゃんとするような、こころが落ち着くような、ふしぎな気もち。わたしは学生時代に文化人類学というのを専攻していたので仏教概論の授業も受けたものだけれど、仏像や仏閣に興味はあっても学はない。そして、千三百年も前に作られた文化が受け継がれているという土地があることにまず驚いてしまう。大阪育ちで和歌山在住、若いころから京都にも奈良にもあそびにいっていたタカコさんは仏像にも明るいので、お話していると「ものを知るということはひとを豊かにするのだな」ということをしみじみと感じます。「午後の仕事が休みになると高速を飛ばしてやってきて、戒壇堂の裏っがわでよく昼寝したものね」と笑うのもキュートです。

戒壇堂の表階段を降りて白壁の通りを散歩。そばを食べて、庭を見て、いっぺんに奈良を好きになる。国立博物館正倉院展も観たかったけれど、表の行列が三十分待ちと聞いてびっくり。平日だってのにビッグサンダーマウンテンかよ! と悪態をつきつつシカ公園に戻る。

ちょうど公園の芝生のうえでは「奈良フードフェスティバル」というイベントが行なわれていて、かわいいオープンカフェとショップが出ていた。近寄ってみると畑直送の野菜や、かわいいラベルのジャムや、雑貨など……、あっ、「くるみの木」!

「くるみの木」は、今回の奈良遠足のいちばんの目的である雑貨とカフェの店。夏にタカコさんが貸してくれた本がある。それは「くるみの木」をつくった石村由起子さんがこれまでの経緯やお店について語った『私は夢中で夢をみた 奈良の雑貨とカフェの店「くるみの木」の終わらない旅 』という本。

私は夢中で夢をみた―奈良の雑貨とカフェの店「くるみの木」の終わらない旅

私は夢中で夢をみた―奈良の雑貨とカフェの店「くるみの木」の終わらない旅

わたしは夏休みの午前中に一気に読んでしまった。石村さんの真摯で挑戦的で穏やかな二十五年間はとても読みごたえがあり、それ以来、いつか行きたいなと思っていたお店なのだ。

車で移動して「くるみの木 一条店」へ。

JRと近鉄の線路沿い、街道の踏切のすぐそばという場所。入ってすぐ右側には雑貨店、正面にはカフェレストラン。建物に寄り添うように木々が生え、紅葉を迎えていた。軒下には薪が積まれ、庭にはベンチ。この「くるみの木」が今とはまったく状況も文化もちがう二十五年前からここにあると考えると、その穏やかな佇まいに芯が強く凛とした思いが見えてくる。

 
 

雑貨屋をのぞいたあとに、カフェへ。「11月は、むかごのごはん、高野豆腐と大和まなの炒めもの、蓮根と牛蒡のきんぴらサラダ 、菊芋とおかひじきのかき揚げなどのメニューをご用意しています。」とおいしそうな「くるみの木 秋のランチ」は、数日前にすでに予約売切だったので、二種類のトーストと野草茶と季節のジュースと、デザートに玄米アイスクリームを注文。

 

じゃことチーズと韓国海苔のトーストがおいしかった。厚切の食パンにうすく塗ったバターとマヨネーズがポイントだとおもいます(たぶん)。季節のジュースは本日かぼす。野草茶は煮出すまで十五分ほどかかるだけあって、香りも味もおいしく安心してのめました。

今でこそ、こういう店はめずらしくない。日本全国きっとどの町にも、すてきなお店はいくつもある。しかし、にわかの半端ものが多いのも事実。二十五年間、ひとりの女のひとが信念と夢にカタチを与え、だいじに育ててきたものがこの「くるみの木」。お店の佇まいはもちろん、メニュー、ディスプレイ、お店の情報を載せたカレンダー仕立てのフライヤーやメニューなどの紙もの、お皿にさりげなく添えられた赤い葉っぱなど、幅広い年代の女のひとのハートをくすぐる感性が、お店を囲むすべてに徹底されていた。たった一度ではなく、いろいろな季節に何度も来たいお店(列車で来るとけっこう歩きます ※バス:近鉄奈良駅orJR奈良駅より「教育大附属中学校前バス停」下車徒歩三分/電車:近鉄新大宮駅」より徒歩十五分)。


【くるみの木 一条店】
奈良市法蓮町567−1 電話:0742-23-8286 第三水曜日定休

水取りの東大寺二月堂、数年前から狙っている若草山の山焼き、今回寄れなかったタカコさんおすすめの「寧楽美術館」にも行ってみたい。大阪から奈良が近いということがわかって、なんだかとてもドキドキしています。また来たい、奈良! 秋の日のたのしい奈良さんぽとなりました。