ミスハタリの虹と雪のバラッド 十一月の札幌旅

三泊四日で札幌へ。今年六度目の北海道はすでに紅葉もエピローグ、いつもより相当早い初雪が北風に舞う、冬の勇み足。

育った家の裏手には、芝生、丘、池、砂場、運動場、野球場、アスレチック広場、相撲の土俵まで揃った大きな公園がある。小学生のころには屋外プールもあったけれど、閉じてしまった。チビッコハタリが急な坂をそりで滑り降りたり、池に頭からジャボンと落ちたりしたのも、いまはむかし。池をぐるり、齢十八までのハタリを説明するノスタルジックな散歩。のはずが、たった三十分歩いただけで鼻と頬が凍えてしまった。家に逃げ帰って、二匹の猫といっしょに床暖房のうえに寝転ぶ。弱虫。

人生儀礼のひとつの形として、すすきのにて廻らないお寿司。駅前通りからすこし入った通りにある白木造りの「薄野 鮨金」は、シンプルで小綺麗なお店。付き出しのひとつ、蛸の柔らか煮のだしの含み具合がバツグンだった。わたしはこの夜さいしょに箸をつけた蛸の味を一生忘れないだろう(丁寧に握られたお寿司は見た目もきれいで、鮮度も味も素晴らしい、活ホッキ貝の絶妙なあぶり具合といったら見事だ)。
【薄野 鮨金】 札幌市中央区南4条西4丁目 松岡ビル1F 電話:011-251-9521 →☆ 食べログ

翌々日、今度は廻る寿司屋で活ホッキのひもや白つぶやらほっけの昆布〆やらを食べた。初雪は降っても「たち」にはまだ早い十一月、寒が付く日が来るのが待ち遠しい。「たち」というのはたらの白子のことで、札幌の寿司屋では生白子を軍艦で食べられたりするのだ。寿司とビールのあとに、狸小路七丁目で塩ホルモンを焼いてマッコリな夜。

ホテルの大きなベッドで目覚めた朝。中島公園を散歩して「キコキコ商店」へ。札幌に帰るたびにあそびにいっている大好きな「場所」。かすべの煮付け定食の朝ごはんを食べながら、店主の末木さんとチカコさんとおしゃべり。

キコキコ商店は道外から個性的なミュージシャン(栗コーダーの川口義之さんや関島岳郎さんや、JON(犬)さんや渡辺勝さんと松倉如子さん、先月はASA-CHANG&巡礼もツアーで来ていました)を呼んでいるライヴハウスのようなお店でありながら、ここが自ら発信する創造体だということは意外と知られていない様子。そのひとつが、今年九周年を迎えた豆本「等豆社」。

豆本の数々。その仕事ぶりは実直でユニークで前向きで、なによりおもしろい。第一作目の『キコキコぼうや』をはじめチカコさんの画によるオリジナルの絵本、それをまじめに翻訳した英語版とドイツ語版。コーヒー道の指南書、多くのミュージシャンや画家といっしょに作った豆本や歌本など。それからコーヒーをはじめとしたいろいろな飲みものと、ごはんとおやつ。キコキコ商店はここにしかない好きな「場所」だ。だから度々訪れてはおしゃべりし、いつも数時間が過ぎてしまう。しかしキコキコはお店でありながら、「場所」以上のお楽しみを持っている。「そう言って何度も遊びにきてくれるのは、たいてい道外のお客さんばっかりなんですよ」と末木さん。なんてもったいないハナシじゃないの。お店にあそびにいくのはもちろんだけど、そのうちに豆本や音楽やコーヒーとおやつを抱えて、北海道の外へもキコキコとやってきてくるのをたのしみにしています。


【キコキコ商店】 札幌市中央区南12条西6丁目1-43 電話:011-521-0098
お店のブログ→ id:kikokiko3 チカコさんの日記→ id:abahiko 

今年はよく北海道へ里帰り/旅をした一年でした。次に訪れるのは二月、大事な用事を済ませたら、より道のダンドリでも組もうなんて、路線図をじっと眺めながら、ここしばらく北海道の列車に乗っていないわたしは大好きなキハに思いを馳せて次の旅をたくらむのです。それに、二月の釧路湿原にはきっと蒸気機関車が走ってくれるだろうからね(→ ☆2008年2月21日の日記「ミスハタリの道北旅」)。