ミスハタリ 水の旅 0 水と緑と鉄道とわさびの幸福

乾いた町で、定期券をかざして毎朝毎夕同じ通勤ルートを繰り返す。ベランダに咲く朝顔にこころが爽快になるのは悲しいかな午前七時半のほんの一瞬だけで、ずいぶん前に夏の扉をノックしたのに、わたしのなかで夏はなかなかはじまらない。なにかが足りない。そうだ、水だ、緑だ、鉄道だ。答えは平易で、わたしは単純。金曜日の夜半に繁華街を抜け出すバスに揺られて(三列シートだから快適なのだ)、名古屋駅に着いたのは午前五時すぎ。昨夜の酒を残して駅前広場にだらしなく転がるヨッパライたちを尻目に、始発列車に乗り込んだらわたしだけの夏休みがはじまります。今回は実質たった二日間だけの旅ながら、朝の六時ころから夜の九時ころまで列車に乗っていました。

この二日間で乗った鉄道(路線)はつぎのとおり。東海道本線(名古屋→岐阜)、高山本線(岐阜→美濃大田)、長良川鉄道(美濃大田→美濃市郡上八幡)、その復路でもう一回長良川鉄道郡上八幡→美濃大田)、高山本線(美濃大田→高山→猪谷→富山)、北陸本線(富山→糸魚川)、大糸線糸魚川南小谷→白馬→穂高→松本)、篠ノ井線(松本→塩尻)、中央本線塩尻→吉祥寺)。基本は鈍行ラブながら、時刻表上でどうしても接続ができないとわかると、やむをえずワープもするのだ。「特急ワイドビューひだ」と「特急スーパーあずさ」には初乗車。

ああ、ほんとう、大糸線(非電化の糸魚川南小谷)はかわいいったらないね。乗ったのは昨年と同じく「キハ52 156」の朱色チャンだけど、時刻表通りに根知駅で待ち合わせたのは黄色×赤ツートン。どっちもほんとうにキュート。糸魚川駅のレンガ倉庫も健在でした。JR西日本金沢支社糸魚川地域鉄道部によるお知らせサイトはいつも丁寧でいいなあ。って、キーホルダー売ってたんだ! ガーン!

この二日間で足を浸したり、水しぶきを眺めた水はつぎのとおり。郡上八幡の水路はもちろん、高山本線沿いの中山七里、飛騨古川駅の線路沿いの水路、飛騨細江あたりからの宮川、分水嶺を過ぎて神通川北陸本線の車窓から見た日本海大糸線と並行する姫川、白馬の川、穂高のわさび畑と水路。今回の旅の目的は郡上八幡の吉田川に飛び込む河童を冷やかしにいくことだった。橋の上でナンパしたら若い衆が飛び込んでくれました。ヤッホー!

この二日間で入った温泉はひとつだけ、白馬「倉下の湯」。鉄と硫黄のバランスが絶妙で、露天風呂から眺めた白馬八方尾根はやはり爽やかだ。乗った自転車は、白馬と穂高の駅前で借りたママチャリ二台。食べたそばはわさびがツーンと利いていた。旅の贅沢は、富山の居酒屋でバイ貝の刺身と白えびの天ぷらとおにぎりと生ビール。見逃したり通り過ぎた夏祭りは、郡上おどりをはじめ、下呂の花火大会や越中八尾の盆踊りや高山の納涼祭。そのくせ出くわしたよさこい踊りのやかましさは二度。かき氷屋や湯の中で話したのはオバチャンやオバアチャンばかり。

昨年の旅では不通区間でバス迂回した高山本線の角川駅〜猪谷駅岐阜県から富山県に渡った県境の山の駅、猪谷で夜を迎えた。ここで出会った空がこの旅の宝物になった。鈍行列車(JR東海)に乗ってきて、次の鈍行列車(JR西日本)を待っていた数人の見知らぬ旅人だけで共有した景色。



続きをいつ書けるかの見通しはまるで立たずですが、恒例の旅日記、ちょうしにのって目次だけ先に立ててしまいます。コンパクトながらも幸福な旅の話、ほんとうはね、アナタの首ねっこをつかまえて浴びせるように一晩中しゃべりたいくらいなのです。


【ミスハタリ 水の旅 20080802-03】
0 水と緑と鉄道とわさびの幸福(ダイジェスト) 1 かなわぬ夢、越美南線(長良川鉄道) 2 郡上八幡、河童の飛躍 3 添い遂げゆく水、高山本線 4 猪谷駅の宝物 5 富山「オークスカナルパークホテル」 6 大糸線の恋 7 白馬「倉下の湯」再訪 8 穂高安曇野わさびの風