ミスハタリ 水の旅 1 かなわぬ夢、越美南線(長良川鉄道)

はじめまして、長良川鉄道高山本線美濃太田駅のいちばん端のホームが長良川鉄道の発着場。JRから乗り継ぐためには改札をまたぐ必要が一応はあるものの、長良川鉄道の駅舎が独立してあるわけではなく、国鉄時代の名残そのままに間借りしているような風情。

ホームにはただのひとりの駅員も常駐していなく、古い仕様の券売機と飲料の自動販売機があるだけだ。土日に使えるというフリーきっぷはその券売機では購入することはできず、運転手に「フリーきっぷがほしい」と告げると、いくつか先の有人駅の関駅に停車したときに、駅員が列車に乗ってきて手渡しで売ってくれる。

越美南線とは、旧国鉄時代の呼び名。「越」は越前、「美」は美濃。つまり、岐阜の美濃郡上から福井県日本海側に抜けようという目論みの路線だった。南線というからには北線もあり、「越美北線」は国鉄民営化のあともJR西日本に引き継がれ、今日も福井県北陸本線越前花堂駅から九頭竜湖駅を結んでいる。というのは、文字で知った知識でしかない。乗ったことがまだないので、どんな路線なのかは、宮脇俊三さんの本で読んで得た国鉄時代の話でしか知らない。通称「九頭竜線」、九頭竜と聞くと『座頭市と用心棒』の岸田森がパッと浮かんでしまうわたしには、日本海の荒波のイメージもあいまって、はらはらと動悸がするよな不穏なイメージをもってしまっているのだけれども、実際はそんなはずはないのだろう。

しかしいくら想像しても、越美北線は遠い。旧越美南線、長良川鉄道終着の北濃駅と、九頭竜湖駅のあいだは、悲願叶わず線路が敷かれることがなかった。いまでは、それぞれの終着駅を結んでいたバス便もなくなり、きっと北濃ホームに立ってみても、その先の風景は不明瞭なことだろう。同じく国鉄時代に、いつ通じるものかと半ば諦められていた秋田の阿仁合線と角館線が、その後三セクの秋田内陸縦貫鉄道によって一本に結ばれた一方で、この越美南北線のように、志半ばにして歩みを止め、いつまでも手をつなげず、盲腸線のままという線路もある。一度もあったことがなく、そしておそらく今後も会うことがない遠い恋人を待つ織姫のような、長良川鉄道

郡上へ通じるという長良川鉄道は、ずっと乗りたかったローカル線のひとつだ。関や美濃、郡上八幡はもちろん、駅のホームからドア一枚で温泉に通じてしまう「みなみ子宝温泉駅」だってある。しかしなんだかおかしい、なにがおかしい? 思いのほか車窓が平坦だから? 三セクになって駅が増設されたために駅間が短いから? 頭をひねりながら乗り続けることしばらく、午前7:58に美濃市駅着。いったんここで下車して、次の列車が来るまでの二十分ほど、駅のそばを散歩。木造の駅舎はとても古く、ポストや待合椅子のオレンジ色がとてもまぶしい。

 
 

美濃市駅からしばらく歩くと、廃線となった名鉄美濃線の駅があり、車両が残っていた。路面電車だ。かわいいな。

 

美濃市駅から、郡上八幡に向かう列車に乗る。夏、「郡上おどり」のシーズンまっさかり、それらしき観光客が束になっているとはいえ、ふしぎと車内は静か。車両番号が「ナガラ304」というのはちょっとかわいい。単線のうえを一両か二両編成の気動車がトコトコ走る。車体ごとにちがう花の絵が描かれている。こいいう、土地の温度を感じられると、やっぱりうれしい。通り過ぎた車両など、わたしが見ただけでも四種類の花が咲いていた。

 

しかし、ずっと憧れだった「長良川鉄道」、これが意外なことにわたしの胸にはさほどキュンと響かなかったのだ。ここ最近、旧国鉄の地方三セク路線のがんばり屋さん(「のと鉄道」→や「秋田内陸縦貫鉄道」→)に乗ってきたからだろうか。その鄙びた姿を抒情と受けとめることができず、なんとももどかしい悶々とした気もちになってしまった。どうしても「夢やぶれたり」という寂しさが漂っていた。その日がたまたまだったのかもしれない。一度往復した程度で、その土地に強く求められて敷かれた線路について知ったような口をきくのはおこがましい。しかし、正直なところ、長良川君、もっとがんばろうよ、と思った。かなわなかった手つなぎの夢は、その両手を天高く伸ばして、バンザイしてしまえばいいじゃない? もちろん、お手あげのポーズなんかじゃなくてね。

むかしの夢は叶わずとも、いまも長良川鉄道は終点で行き止まれば折り返し、ゆっくりと走りつづけている。走りつづけるかぎりはがんばってほしいし、がんばるべきだとおもう。もっと明るい表情をみせてくれたら、きっとみんな惚れちゃうとおもうんだ。だから長良川鉄道、次に会うときは、きっと恋をさせてね。

【長良川鉄道】



【ミスハタリ 水の旅 20080802-03】
0 水と緑と鉄道とわさびの幸福(ダイジェスト) 1 かなわぬ夢、越美南線(長良川鉄道) 2 郡上八幡、河童の飛躍 3 添い遂げゆく水、高山本線 4 猪谷駅の宝物 5 富山「オークスカナルパークホテル」 6 大糸線の恋 7 白馬「倉下の湯」再訪 8 穂高安曇野わさびの風