htr2004-03-21

サイコロは持たずとも夜行バスの旅ははじまる。旅の道連れはおにぎり娘一号と二号。一号は頻尿のおそればかりに気を取られ、二号はいびきを心配して鼻にテープを貼っていた。最後部座席で丸くなって眠り、トイレ休憩のサービスエリアで真夜中の体操。そうこうしているうちに夜が明けて京都着。無駄に高いテンションを保ったまま京都タワー浴場、イノダで朝食。眠気は覚めるどころかますます眠い。持参した包丁を有次に砥ぎに出し、三月書房で「座頭市映画手帖」がそこそこ売れているのをこっそり確認し、その斜め向かいの一保堂で玄米茶とほうじ茶の葉を買った。そして若者ロード三条のモリカゲシャツで白いシャツに惚れたり、タンゴ喫茶クンパルシータで数字の「7」みたいなおばあちゃんが運んでくれたバタジャムトーストが美味しくておかわりしたりした。その後ライトアップされた祇園を歩いて懐石料理。つまりはミーハー女子な旅、ただし愉快なわたしたちにはお金だけがないのだった。「わはははは、焼酎だけじゃあまだまだ笑えねえなあ」とかなんとか大笑いしながら、ホテルの部屋にて缶チューハイでまた乾杯。
明けて日曜日。自転車を借りてサイクリング。清水寺から青蓮院、南禅寺と北上する。地図の読めない女の子たちを先導しているうちにアスリート魂に火がついた。悪い癖とわかっていながらぶっ飛ばす。京プチヤンキーに何か言われたけれど振り返ってニッコリ笑ってさらに飛ばす。住宅街にある美味くもないお好み焼き屋で瓶ビール。店の小父さんは再放送のミステリードラマに夢中で味付けが濃すぎたのだ。ほろ酔いの勢いで閉園間際の銀閣寺に駆け込んでぐるぐる回るが、もはやワビサビなどどうでもいい。道に落ちている椿の花をなぜか動画で撮っていた。バスが出発するまで京都駅地下の呑み屋にてまた乾杯。「なんだかこの景色、東京駅の地下とかわらないねー」。駅構内を歩きながら酔っ払いらしき悪ふざけはつづく。そしてバスに乗り込み、一号はまたトイレを気にし、二号は鼻にテープを貼って眠ってしまった。春の京都を満喫したかと問われればどうしたものかわからないけれど、ここしばらく望んでいた「移動が目的の旅」は実現したし、愉快な同行者と過ごす昼と夜はいつにも増して馬鹿馬鹿しくてわたしを多いに笑わせてくれた。早朝五時半に新宿駅で解散。眼の下にくまを作ったわたしたちはそこで手を振って別れる。「じゃあ、明日、高円寺で!」。