ミスハタリ 水の旅 2 郡上八幡、河童の飛躍

とちゅう、車窓から「みなみ子宝温泉駅」を見遣りつつ、9:40、郡上八幡駅に到着。まだ午前中だというのに暑さが厳しい。水が恋しい。郡上八幡の駅には郡上おどりの提灯が下がり、この路線では珍しい有人駅なので賑やかに思えたが、駅前は酒屋が見えるだけでとても静かだ。駅の待合室には「ふるさとの鉄道館」という一室があり、国鉄時代のサボや券売機や時刻表やレールが展示されていた。

 
 

うーん、この「整然とした物置」な風景、地味でいいな。廃線スレスレの目に遭ってきた地方交通線の要所の駅にはこういう国鉄の置きみやげがある(釧網本線の標茶駅もそうだった→)。

コミュニティバスに乗って町へ。遠回りだったのか、町の縁をぐるりと周って、郡上八幡城下町プラザという、観光拠点兼土産物屋で地図をもらう。水を求めて、郡上の散策スタート。

まずは県の指定史跡「宗祇水」へ。ここの水が「日本名水百選」の第一号なのだという。子どもたちがはしゃぐ数分前に、湧き水を口にふくむ。甘い気がするのは旅人の正しい贔屓目。飲み水、野菜を冷やす水、生活用水。しばし離れていた、水が湧く暮らし。由緒正しきその水を、ペットボトルに詰めて旅のお供にいただきます。

 

本町のあたり。思いのほか静か。カレンダーを見ると、今夜の郡上おどりは町から離れた城山公園なのだという。日によっては本町の通りでも踊ることがあるという。見てみたいな。

 
 

歩いているひとはみな観光客のよう。それを気にしない様子の人たちが町のひと。郡上踊りがつづく夏の一ヶ月間は毎日こんな様子なのだという。

旧庁舎記念館から小学校へ抜ける、狭い「いがわ水のこみち」へ。町の中心地にある「やなか水のこみち」が思っていた以上に「スポット感」が強くあまり水の匂いがしなかったのに比べて、この、吉田川から一本入った木陰を流れる小径の散歩は涼しくてたのしい。前を歩く家族がえさを撒くものだから、さかなたちが水面を荒らして、数日前に見た『崖の上のポニョ』のワンシーンみたいになっていた。

 

「氷」ののれんを見つけて涼をとる。金華堂という和菓子屋さん。「氷ください、そうだなあ、氷あずき」。お店のおばあさんが氷を削る。ふわふわにふくらんだ柔らかい氷。

 

水が美味しい。子どものころに軒下のつららをなめたり、庭の新雪を食べたりした記憶がもどってくる。水の町の、水の味。「おどり、見てくの?」いやあ、もうすぐ出なきゃいけないんです。「早いなあ」。このあと高山まで出るのに、ほら、列車が少ないから(今夜じゅうに富山まで……と言いかけて、なんだか説明が面倒になったので高山で止めた)。「どこから?」。東京です。「遠い」。氷、おいしいです。「そう?」。わたし、郡上の河童を見に来たんです。「ああ、このあたりの子はみんな飛び込んでいるね」。でも、さっきも吉田川を見てきたけれど、誰も飛び込んでいなくて。「新橋?」。はい、すぐそこの橋。

かき氷のおばあさん曰く、さいきんは新橋の川底に砂が増えてしまったから、さいきんは一本奥の、小学校そばの橋からみんな飛び込んでいるということ。「土地の子は小さいときから飛び込み慣れているからぜったいにヘマしないけど、よその高校生が真似して飛び込んで頭ぶつけて、ひと夏にひとりふたりは救急車で運ばれているねえ」。

店を出て日なたを歩くとすぐに涼は乾いてしまった。水、水。水、いいや、むむむ、ビール、ビールはまだがまんしなくちゃと、明宝ハムをモグモグと食べ歩いていると、前方に若い青年四人衆を発見。橋の上で声をかけた。「ねえねえ、キミたち、ちょっと飛び込まない?」。



「おねえさんは飛び込まないンすか?」。やだよ、麦わら帽子が飛んじゃうもん。飛び込むのを囃したてるだけのわたしだけれども、次の夏休みには、この吉田川で水あそびがしたいな。だって、郡上八幡の水はおいしいってこと、知っちゃったからね。「水が恋しくなったから旅に出ます」。おかしな言い訳がまたふとつ増えた、郡上八幡の夏。



【ミスハタリ 水の旅 20080802-03】
0 水と緑と鉄道とわさびの幸福(ダイジェスト) 1 かなわぬ夢、越美南線(長良川鉄道) 2 郡上八幡、河童の飛躍 3 添い遂げゆく水、高山本線 4 猪谷駅の宝物 5 富山「オークスカナルパークホテル」 6 大糸線の恋 7 白馬「倉下の湯」再訪 8 穂高安曇野わさびの風