ミスハタリの秋田旅 5 男鹿なまはげライン

リゾートしらかみ」の上下線を乗り継ぎ、都合七時間ほど五能線をめぐる旅(移動だなんて言わないよ)を終えると、すでに午後十時すぎ。本日の宿は、秋田駅から徒歩五分ほど、千秋公園の向かいに建つ「中通温泉 こまちの湯 ドーミーイン秋田」。シングル一泊素泊まりで四千円(プランや時期によってはこの限りではありません)、ベッドは大きいし、新装された館内は明るくて清潔だし、階上に大浴場や露天風呂もある。ドーミーイングループに泊まるのははじめてだったけれど、やったね、ここはアタリだ。秋田の夜空を見上げながら、風呂上りのビールを恋しく思う。湯治宿も民宿もビジネスホテルも、たいていの宿にはひとりで泊まるけれど、ここ最近、コストパフォーマンスの高い快適なホテルとの出会いが多くてうれしい。金沢の「KKRホテル金沢」といい、川湯温泉の「川湯ホテルプラザ」といい、こういう宿が方々にあると旅の足も軽くなるってものよ。シーツがビシッと敷かれたベッドで心地よく眠り、翌朝の目覚めも快調。午前八時半にホテルを出て秋田駅へ。名前が気になる「男鹿なまはげライン」こと男鹿線に乗るのだ。フリーきっぷはたくさん列車にのることができてうれしいな。

日本の方々に「森と水とロマンの鉄道磐越西線)」や「銀河ドリームライン釜石線釜石線)」などの愛称を持つ鉄道や、「肥薩おれんじ鉄道」や「北近畿タンゴ鉄道」のようなちょっと気になる名前の三セク線があるけれど、そのなかでも「なまはげライン」はもっとも名前のインプレッションが強い鉄道じゃないかなと思う。


 

そのなまはげライン、車両は「キハ40系」の二両編成で、一方がロングシート、一方がクロスシート。車体の外装に唐突になまはげの絵が描かれているくらいで、あとはいたってふつうの地方交通線といったそっけなさ。すこしくすんだ緑色がノスタルジック。9:57秋田駅出発。列車が走り出し、細く開けられた窓からの風が長袖を揺らした。四月とは思えないほどに暑い日になりそうだ。

秋田駅を出て土崎駅の手前に見えるのが「秋田総合車両センター」。もともとは列車の整備や製造をしていた土崎工場で、窓にへばりついて眺めていると、倉庫のような大きな建物がならぶあたりに昔の繁栄を感じた。専用線路も多く、やはりなつかしい車両が無造作に停まっていてキュンときた。

男鹿線は追分駅で奥羽本線と別れて半島に向かう。沿線には桜が咲いていてきれいだ。土地の生活が見えてくるような風景がつづく。耕されるのを待つ休眠畑、乾いた水田、枯れ草、むきだしの墓場。船越駅の手前で大きな溜池のような水場を越える。脇本駅を出ると山が現れ、坂道のとちゅうで喪服姿の家族が列車に向かって手を振っていた。庭先なのか路傍なのか曖昧なあたりに春の花が咲いている。羽立駅を過ぎたあたりでようやく海が見えた。列車はすぐに減速して10:54には男鹿駅に着いてしまった。あっけない旅だった。

男鹿駅の駅前にはコンビニエンスストアも何もなく、ひさしぶりに「何もない」町を見た気がした。ふらりと歩いてみても、日曜の午前中、駅前はひっそりとしていて、客待ちをするタクシーの中からの視線を感じるだけだ。駅に戻り売店のオバチャンと四方山話をしながら帰りの列車を待つ。男鹿をめぐるならバスでどこかまで行けば海岸線のドライブになるよと勧められたけれど、わたしは三〇分後に折り返す列車で秋田に戻ることにした。

男鹿線はのんびりと、すこし前に通ったばかりの線路の上を逆方向に走り出した。ついさきほど、札幌から飛んできたママハタリから、空港に着いたという連絡が届いた。なまはげラインが終わりこの列車が秋田駅に着けば、わたしの「旅」はおしまい。そこから、ママハタリとの「旅行」がはじまるのだ。


【ミスハタリの秋田旅 20080418-22】
1 上野駅13番ホーム 2 「あけぼの」の青い夜 3 キュートな秋田内陸縦貫鉄道 4 五能線センチメンタル 5 男鹿なまはげライン 6 山荘「駒ヶ岳温泉」 7 青空と桜、田沢湖と角館 8 角館「田町武家屋敷ホテル」と桜旅終章