喜劇 とんかつ一代

午後六時半、ねずみ色のお父さんでごった返す田町駅から地下鉄に駆け込んで、京橋フィルムセンターへ。川島雄三監督の特集上映、どれも何度も観たいけれども、そうだ、やはり『喜劇 とんかつ一代』(1963/東宝)だよね、と思いついたのは、昼すぎに和幸の「とんかつ弁当」を食べていたとき、その庶民の幸福という符丁にハッとしたから。「とんかつがァ〜喰えなくなったら、死んでしまいたい〜」と、森繁久彌が歌い、油のなかから上げられたとんかつに包丁が入ると、ジュワッと幸福の湯気があがる。ああ、しあわせな食べ物だなあ、とんかつは。

はじめて観たときには、その豪華なキャストに圧倒されて(森繁! 加東大介! のり平! 淡島千景! 水谷良重! 茶山花究! 益田喜頓!)、ひたすら笑っていたのだけど、今回もやはり笑い通しだった。冒頭の豚供養のシーンから、山茶花究の職業が明かされるまでの引っ張り具合、茶屋での森繁とフランス学生役の岡田真澄のグダグダな泥酔ぶり、階段をぐるぐ登ったり降りたりして繰り広げられる森繁と千景夫婦のドタバタ、のり平のズボンの膝にはウサギとクマのかわいい膝あてがついていたり、池内淳子のとぼけっぷりが相当に素敵だったりする。ベタベタなドタバタもあれば、会話の妙も冴えている。ほんとうに万人が楽しめる喜劇。ラストの大団円では満足感でおなかいっぱい。団令子とフランキー堺のラブシーンの濃厚さにもクラクラ。満席の場内、最前列の椅子にもたれて見上げながら、とんかつの油のにおいをかいだ金曜日の夜。

はじめて、この映画を観たのは下北沢の小さな映画館。そうだ、場内でカツサンドを食べているひとがいてうらやましかったのだった。
http://d.hatena.ne.jp/htr/20040620