新版ミスハタリの北陸旅 3 能登、くじらをめぐる冒険

金沢をあとにして、くもり空の下を能登有料道路を飛ばします。能登半島は海だけじゃなく、山のある場所なのだなということが、めくるめく景色で実感。想像以上にアスレチックな土地だった。

海沿いの細い道を走って、真脇ポーレポーレで立ち寄り湯。ここの「縄文真脇温泉」の設計は、名護市役所や北海道ホテルでもお馴染みの設計集団によるもの。相変わらずの大胆な意匠。お湯はナトリウムが強く塩っからい味。夏の晴れた夜なら、露天風呂から、海に出たイカ釣り漁船の灯りが見えるそうです。

能登に行くならぜひとも泊まってみたい、あこがれの民宿「さんなみ」はもちろんいっぱいだったので(秋冬の平日あたりにリベンジしたいな)、バクチ気分で宇出津港の民宿に投宿。バクチは旅に必要なスパイスのひとつです。海を目前にした「民宿割烹かね八」は旧網元の家屋を改築した古くてエコノミーな宿。とにかく中が広い。広間だって大宴会ができそうなくらいに広い。その広間に用意された夕ごはんは品数も量もとても多い。お造りを中心とした魚料理、天ぷら、小鉢の数々、煮物……。ああ、お米を食べている余裕なんてないよ。

それらに加えて、くじらプランでの宿泊ゆえに「くじらのお造り」と「くじらのすき焼き」。宇出津港は、定置網にときどきくじらがかかることがあり、運が良いと新鮮なくじら料理が食べられるらしい。このプランは冬に捕れたくじらのストックが尽きるまでというもので、大して期待していなかったのだけれども、ドドンと登場したくじらに圧倒されてしまった。お造りは生姜しょう油と、黄身を混ぜ込むユッケ風の二種類でいただきます。すき焼きは白い脂身が厚切りで四枚入っていて、一枚食べるごとに、翌朝鼻血を出して目覚めるんじゃなかろうかという恐怖を感じるほどのパワー。愛知県の瀬戸で割かれた直後のうなぎの肝を食べたとき以来の衝撃(と脂)。

すっかり満腹になって、民宿の浴衣に着替えておやすみなさい。連休中で繁盛しているご様子、しかしどの泊り客も宴会は控えて午後十時すぎには静かになってしまった。聴こえてくるのは、すぐそばの波の音ばかり。くじらの夢を見て眠る。

翌朝、鼻血が出ていなくてほっとしていると、ほかの部屋から「くじらが揚がったって!」という声。浴衣に羽織をひっかけてサンダル履きで、ものの数分先の宇出津漁港まで。漁船のまわりの空では海ねこがガァガァと騒いでいる。漁師も土地のみなさんも観光客も群がっていてにぎやかな朝。

 
 

宇出津はくじらが名物とはいえ、そうそう頻繁に揚がるものではないので(二、三月は捕れなかったらしい)、とつぜんの大物登場。とうぜんその場は色めき立っていた。ワクワクするなあ。くじらは船のそばで解体されて、LPジャケット〜お部屋のクッションくらいのかたまりで並べられていきます。

切り分けられても相変わらずの迫力。

 

赤組と白組、どっちも強そう。

まるで小学生の社会科見学実習のようなわくわく感。市場や漁港の、「働く大人」の現場というのはかっこいい。しばらく見学して、じゃまにならない程度に船にも近づいてみる。そしてちょっと笑う。

今日は、この町の宿も食事どころものひとも、海ねこも、地上のねこもきっと大忙しだ。なんとも運良くおもしろい場に出会えました。旅の神様、ラッキーをどうもありがとう!



【新版ミスハタリの北陸旅 2009/05/04-06】
1 大糸線カップルトゥギャザー 2 金沢〜居心地のよい町とすてきな大人たち 3 能登、くじらをめぐる冒険 4 海と絶壁と二三味珈琲