ミスハタリの北陸旅 飛騨路へ

さて、これからどこに行こう。海に沿って福井経由で大阪や兵庫に下るか、新潟の温泉に寄って帰るか。朝ごはん用のおむすびを買って乗り込んだのは北陸本線富山行き。高山本線に乗ってみることにした。とちゅうの高山で散歩したり、下呂温泉に寄るのもいいなあ、なんて考えながら。さようなら、金沢! すてきな町だったから、また来るよ、今度はいつか、雪の時期にね。

富山駅で乗り換えて、ハタと気づいたのは、八尾のおわら風の盆が昨日までだったということ。一両編成の高山本線の列車に乗り込んで、ガヤガヤとやかましいオバチャンたちの群れにビックリした。これはのんびりと車窓の旅、というわけにいかなさそうだ。ギュウギュウの車内にちょっとがっかり。

富山発の高山本線は、しばらく家や田んぼの間を単線で走り、平べったい景色を車窓に映し出していた、さほど面白くないかなあ、なんて思ったところで、三年前の水害でいまだ不通となっている区間、猪谷駅に着いた。乗客はわらわらと先を急いで列車を降り、二台の観光バスに乗り込む。猪谷駅は、JR西日本JR東海の境界の昔なつかしい風情の駅。駅まわりを散歩してみたかったけれど、オバチャンたちの勢いにおされてバスに乗ってしまった。やっぱりバスも満員。まるでどこかにツアーにいくみたい。たまらずバスの中でおやつをいただき、遠足気分。

代行バスで、猪谷駅から角川駅までのあいだを小一時間でドライブ。飛騨川沿いに走っていく、なんともぜいたくな風景! ずっと窓の外を見ていた。夏の終わりの緑が、ダム湖の緑色の水面と共鳴して、春や初夏とはまたきっとちがうだろう表情を見せていた。もちろん、雪深くなった冬はまたちがうのだろう。空にはすっかり青空が戻り、白い雲がわいていた。広い川の上に鉄橋が架かっているのが見えた。もうじきあの線路の上にも列車が戻ってくる。長い間、水害で大変なことになっていた高山本線は、すこしずつ不通区間を狭めていき、もうじきすべての復旧作業が終わって、九月八日に全線開通をするという。この代行バスの役目もあと四日。今度は列車の窓からこの景色を見てみたいなと思う。


角川駅に着くと、オバチャンたちは先を争ってホームに並びだした。何か点検をしていた整備員の方たちを押しのけていくものだから、なんだなんだという騒ぎ。片一方の線路の先はここしばらく眠っているだけあってふしぎな静けさがあった。山のなかの、とてもうつくしいホーム。夏休みさいごの忘れ形見として写真をパシャリ。

 

このあとはエピローグ。高山駅で乗り換えのために一時間ほど時間があったのですこし散歩。古い町並み、といっても、観光客で混みあっているし、金沢のお茶屋や町家を見たあとだったので、もう目が見慣れてしまっていた。一本道をそれると、酒蔵や、おまんじゅう屋さんや、絵蝋燭屋さんがあった。午後の日差しにくらくらしながら、昼ごはんも食べずに散歩。

 

高山駅から美濃太田駅へ。美濃太田駅では、郡上八幡へ向かう長良川鉄道に恋心を抱きつつ(次の夏は長良川鉄道に乗って、郡上八幡で水あそびをすると決めたのだ)、太多線で多治見へショートカット。車内には学校帰りの高校生、窓の外には一日あそんだあとの美しい夕暮れ。多治見駅からは何度も乗っている中央西線で名古屋へ向かう。この領域に入ると、もう夏休みが終わってしまった気分。名古屋はすっかり「仕事をしにいく町」なのだ。途中の千種駅で下車して、友人たちが参加している「藤井郷子オーケストラ名古屋」のライヴにおじゃまする。北陸まで旅していたのに、なぜか、おみやげは途中で買った九州産の焼酎。

「まだ旅の途中なの?」と訊かれて、ううん、もう帰るよ、と答えた。夏休みはもう終わり


【ミスハタリの北陸旅 2007】
1 出発 2 白馬と大糸線 3 金沢前篇 4 金沢後編 5 のと鉄道と和倉温泉 6 飛騨路へ