ミスハタリの北陸旅 のと鉄道と和倉温泉

朝七時に目が覚める。旅の最中は早起きだ。テクテク歩いて兼六園へ。午前七時半だというのに、駐車場にはもう観光バスが乗り付けている。桜も紅葉も雪もない兼六園、観光というより、いつも通りに杉並区を歩くような朝の散歩。金沢城公園もあわせて実によく歩いた。

金沢駅から七尾線に乗って能登へ向かう。ローカル色漂う三両編成、真ん中の車両だけ色ちがいというのがお茶目。椅子や車内の設備もすこし古めで椅子の色もかわいらしい。沿線には住宅と緑と田んぼ。のんびりした車内で居眠りしながら約二時間半。

 

七尾駅のと鉄道に乗り換え。かつては輪島や蛸島まで路線があったらしいけれども、いま残されているのは七尾〜穴水間という短い区間だけ。二年前に廃線となった蛸島までの能登線がのこっていたら、能登半島の先までいけたのに、と残念な気分。とりあえず乗り込んで出発を待つ。こちらも一両編成の気動車

 

和倉温泉駅はひとつ目なのだけど、この列車の行く先を見届けたくなって乗り越すことにした。能登中島駅を過ぎたあたりから列車が森の中を走りだした。単線の線路ぎりぎりまで生い茂る草木を分け進んでいく緑の列車。バサバサワサワサッという音が聴こえてくるような。線路はあるのに架線がない、バスのように走っていく列車。傾斜を登るときにはグンと加速する。その不規則な揺れが面白い。イタリアのサルディニア島を縦断するときに乗った列車も、こんなかんじの、まるでバスな気動車だったなあ、なんて思い出した。森を抜けると穏やかな海が見えた。曇り空から晴れ間も顔を出した。ジャーンと音楽が鳴ったような気がした。車内では行商の大きな荷物をかついだおばあちゃんが、運転手にお茶をあげている。のんきでのどかな、この地の生活を運ぶ列車。七尾から穴水まで四十分間ほど、すれ違った列車は一台だけ。




穴水駅で一旦切符代を払ってから数分休憩。ゼロ番ホームに置かれていたのは古い山吹色の車両、NT100型気動車。この先の、輪島や蛸島へとのびている線路は眠っている。

そして同じ列車が七尾へ向かって折り返す。また同じように海を眺め、緑のトンネルをくぐる列車の旅。

今度は和倉温泉駅で下車。和倉温泉駅から温泉街まで移動して、せっかくだからと有名なお店で地物のお寿司をいただいた。甘えび、地平目のえんがわ、あじ、生げそ、しゃこ、赤平貝、玉子。どれもとてもおいしかったけれど、ちょっとヒーロー不在な地味な布陣。やっぱり来る季節を間違えたんだろうな。

月曜日の昼過ぎという時間がそもそもよくなかったのだと思う。たのしみにしていた和倉温泉は、町が惰眠中のようなだらけた雰囲気。総湯にも入ってみたけれど、湯も町の雰囲気もすべて、わたしの肌には合わなかった。そもそも、温泉街までに乗ったタクシーが、初乗り三百四十円というので油断していたら、町の中でむだな迂回をしながらメーターをどんどんあげていったのが頭に来ていたのだ。人のよさそうな顔をした運転手さんだったのも腹が立つ。正直なところ、寿司を食べても風呂に入ってもおさまらないほど、わたしはこの町に嫌気がさしていた。入湯ものの十分間、余韻も残さず歩いて町を出た。味気のない街道を歩いて駅まで四十分!

うっかりしていた、こういう温泉街は苦手なのだった。いやね、きっと立派な旅館を予約して、駅から送迎バスで乗り込んで、食事も温泉も景色もすべて旅館のなかで済ませるというのが、きっと正しい楽しみ方なのだろうと思う。秘湯一軒宿公共の湯好きな赤貧者のわたしにはどうにも馴染めず、逃げるようにのと鉄道に乗り込んで金沢に戻る。帰り道の七尾線のなんと長く感じられたことか!



【ミスハタリの北陸旅 2007】
1 出発 2 白馬と大糸線 3 金沢前篇 4 金沢後編 5 のと鉄道と和倉温泉 6 飛騨路へ