夏と秋のさかい目の散歩 大阪玉造〜土佐堀〜靱公園

線路沿いでは朝顔のエンディングと曼珠沙華のプロローグが重なっている九月初旬、旅と散歩の記憶を整理していたら、まぶしかった夏休みを思い出しました。八月さいごの週末、名古屋でライヴを終えたあとに近鉄アーバンライナーで大阪へ。

よそさまの庭先で木槿や、道端で芙蓉の花が咲いているのを見て、ああ、とおもうときはたいてい夏の終わり。わたしの名前の「芙」の字は「芙蓉」からきているのだけれども、大人になってようやく木槿と芙蓉の区別がつくようになりました。

寝坊した朝に猫に足指をかじられて目が覚めたら、のんびり支度をしてでかけましょう。JR環状線玉造駅からすこし歩いたところにある長屋作りのピザ屋「バカンス食堂」へ。


【バカンス食堂】 大阪市東成区東小橋1-18-32 電話:06-6977-4545

まずは一階の立ち飲みカウンタでビールと「娼婦のピザ」をオーダー。茄子のマリネなどをツマミに呑んでいると、いよいよピザが焼きあがるという寸法なのだ。モチモチの厚めの生地にアンチョビやオリーブなどが細かく刻まれたものをのせ、オイルたっぷりで焼き上げている。これで五百円というからびっくりだ(写真が真っ赤でよくわからないけど、おいしかったのです)。

カウンタの目の前にさがっている手づくりドーナッツのディスプレイがかわいい。同じく自家製のベーグルもおいしそうでした。

 

ほろ酔いと満腹になった午後二時、二階のお座敷で本日のライヴが開演。リュクサンブール公園などで活躍するアコーディオン奏者ぎんちゃんが教えるウクレレ教室の生徒さんたちによる、ウクレレユニット「シンチーサン」の発表会。女子ばかりでかわいくあやうく素朴なウクレレの音色は、夏休みさいごの昼下がりによく似合います。次はかんのとしこさん(→ )によるアコーディオンソロ。かんちゃんはアコーディオン教室も開いているそうです。一度日暮里のトンボ楽器の体験教室に行ったきりで夢途絶えているアコーディオン、習いにいこうかしら。かんちゃんの曲は題名も唄もすてきでした。そしてさいごに「道路」が登場。玉造でBunpacaというお店を開いていたみっちゃん(唄、ウクレレ)と、リュクサンブール公園のぎんちゃん(アコーディオンウクレレ)と、元The Miceteethのひらくくん(ベース)というトリオ編成。夏らしくハワイアンの曲を織り交ぜながらの音楽に、お座敷で女の子たちがうっとりとからだを揺らす。開け放った窓からときどき入り込んでくる夏の余韻の風とすぐそばの高架を走る103系の列車音が、雑多な雰囲気を加えていた。手拍子を六回打つ曲がなんだかとても耳に残ります。ゆるやかさをかもし出しつつも上手なアコーディオンとベース、その上に乗るみっちゃんの歌姫ぶりがキュート。頭に花をつけるのがあれほど似合う女の子はいないんじゃないかしら。

バカンス食堂の二階の天井からは色とりどりの風船がぶらさがっています。真西向きの窓からの陽射しに観客も演者も汗だく。ビールが進みます。

夕暮れが近づいたら中之島へ移動。国立国際美術館のうしろに夕暮れ(あっ、左下に見えるのはコルテオテント)。

土佐堀沿いの「graf」。家具、デザイン、音楽、フードなど間口の広いクリエイティブ集団の本拠地で、八月中ずっと開かれていたという「川瀬知代 × graf salon "gardens"」展のクロージングパーティ。ここでは、フラダンスやハワイアンバンドの演奏、パーカッションが加わった道路のライヴやリュクサンブール公園(→ )の練り歩きなど、キュートなものたちをいろいろ観られました(が、ビアガーデンのはずがビール切れにはふんがい)。


【graf】 大阪市北区中之島 4-1-18

谷町六丁目の駅からほど近いあたりで野菜やお豆などを食べられる「はこべら」で遅い夜ごはん。葛や湯葉をふんだんに使っているやさしい味わい。肉も魚もおだしも入っていないので、ビーガン・ベジタリアンでもだいじょうぶ。若くて美人でかっぽう着が似合う女将さんいわく、「別にベジタリアンだとかマクロビだとかはぜんぜん考えていなかくて、単純においしいものを出したいと思ったら野菜になっちゃった」。音楽は国産のみ、ゆったりとくつろげるお店です。ご紹介は、次のたのしみにとっておきましょう。

猫に足指をかじられる朝がまたやってきて、こんどの散歩は靱公園へ。

新しく知った大阪で、いくつか好きになりそうな場所がある。それは上町や谷町(→ ☆2009/05/19の日記)だったり、難波宮跡や大阪城公園だったり、川沿いの中之島あたり(→ ☆2009/08/12の日記)だったりするのだけれども、同じようについ足が向くのが、靱(うつぼ)公園。公園そのものの大きさも、草花の茂り具合も、街中にぽっと湧いたかのような風情もいい。公園を取り囲んで小さなギャラリーや魅力的なお店が多く、散歩と冒険がたのしい界隈。いま時期のバラ園では、「オータム」という名前の花が咲いていました。

 

お昼ごはんにはすこし遅れた夕方に、公園を離れて四ツ橋筋を渡った向こう側にあるパン屋でコーヒーと甘いパンの休憩。数種類あるバゲットから一本を選んで連れて帰る。

 
【PAINDUCE】 大阪市中央区淡路町4-3-1 FOBOSビル1F 電話:06-6205-7720

公園からはなれて心斎橋方面へ。物欲と戦う散歩。「colombo cornershop」の店内でいくつかの本をめくっては、値段に小声でギャッと悲鳴。店外棚を眺めていたら、石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(暮しの手帖社)を見つけ三百円で買う。維新派の公演チラシや本とコーヒーのフリーペーパーなどをパン袋のなかに入れて店を出る。コーヒーや階上の「Colombo」はまた次回。


【colombo cornershop】 大阪市中央区南久宝寺町4-3-9 電話:06-6241-0903

と、ここまで歩いたら夕暮れになった。この夏最後の浴衣姿で、袖をたすき掛けにして台所で火を使っていると、開けた窓から秋の予感が入り込んできた。みょうがのシーズンももうすぐ終わりです。夏の記憶を残そうと、みょうがや青しそやねぎなどを刻んで薬味みそを仕込み、冷蔵庫にこっそりしのばせる。朝になると足指をかじって起こそうとするヤンチャな猫をなでながら、八月が終わる。

いらっしゃい九月。なんて、ぼやぼやしているうちにもう十日も過ぎていました。次の散歩はきっともう秋仕様となるでしょう。